(解説)新型コロナ、東京一極集中の流れ変えるか テレワークや動画の活用進む

20200329小池百合子

 新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ目的で、ビジネスの現場でも人と直接会うのを避けて「テレワーク」を活用する機会が増えている。アナリストや報道機関向けに開催する、企業の業績や事業計画などの説明会も動画のライブ(同時)配信に切り替える動きが広がった。多くの人を密集させないためだ。さらに東京都が住民の外出や、他府県住民の東京訪問を自粛するよう求めた。かねてリスクと指摘されてきた東京一極集中が、緩やかに流れを変えている。これを機に、何かというと東京に人を集めたがる中央官庁の姿勢が変化するかが今後の焦点か。(写真は外出自粛を求める25日の小池百合子東京都知事=東京都が配信した動画より)

 シスメックスは6日、例年は東京で開催してきた「技術説明会」を神戸市中央区にある同社の本社で開催した。ただ会場にスタンバイしたのは家次恒会長兼社長や浅野薫・取締役専務執行役員ら、登壇者のみ。事前に登録したアナリストやメディアがアクセスできるサイトに説明資料を表示し、紙芝居方式で経営陣が説明した音声と同時配信した。電話会議システムを使って、アナリストからの質問も受け付けた。円滑にコミュニケーションできたうえ、経営陣とアナリストの双方が出張の手間を回避。日帰りすれば1日に約6時間という移動時間を節約できた。

 神戸市も28日午後に神戸市内のコワーキング(共有)オフィスで、若者をアフリカや米国に派遣するプログラムの報告会を開催した。挑戦を志す若者の海外派遣を通じて、全国の若者と神戸が接点を持つきっかけを作るのがねらいとあって、神戸市が派遣した若者の出身地もさまざま。札幌からライブ動画を通じて、神戸の報告会に登壇した若者の様子を、動画共有サイト「YouTube(ユーチューブ)」のライブ動画として神戸から世界にライブ配信していた(下の動画=神戸市が配信)。

 ライブ動画は従来のテレビ電話の発想と異なり、すでに複数の拠点を同時に結んでコミュニケーションを取ることが主流になりつつある。テレワークの場合でも、「Zoom(ズーム)」などライブ動画の共有システムなどを利用して、各自の自宅で仕事中の同僚の様子を互いに常時共有。パソコンの性能向上もあって、オフィスにいる時と同じように、ちょっとした質問のために話しかけたり、チーム全員に「ちょっと」と声をかけて情報共有したりといったことが無料〜月々数千円といった価格で可能になっている。オフィス賃料のことを考えれば大幅に小さな金額だ。


 さらにテレワークやライブ動画の活用で、ペーパーレス化が浸透するという大きなメリットもある。音声や動画をネットを通じで共有するのだから、説明資料や書類なども同様のツールやクラウドサービス、電子メールなどを通じて共有することはほぼ間違いない。しかも紙に印刷するのと異なり、カラー化にコストはかからず、動画や動くグラフなどわかりやすい資料作りも可能になる。これらは二酸化炭素(CO2)など温暖化ガス排出抑制にも貢献する。

 新型コロナをきっかけに、これまでテレワークやライブ動画を使った会議などに消極的だった企業や自治体なども、新技術の活用による「移動コストの削減」「印刷コストの削減」を体験した形だ。そして行政コストの削減と環境負荷の低減は、中央官庁にとっても大きな課題ではなかったか。ファーストリテイリングなど上場企業の一部が決算発表の記者会見で紙の資料を記者に配布せず、代わりに会場でのタブレット端末の貸し出しに切り替えたことを考えても、もっとペーパーレス化を進める余地があるはずだ。

 技術の進歩によってテレワークなどの遠隔化、ペーパーレスなどの電子化が進み、「東京にすべての機能を備える必要はない」と意思決定をする立場の年代のお歴々が理解すれば、政府は中央官庁の地方移転を加速する時だ。なぜなら東京一極集中は、首都圏直下型地震の際に大きなリスクだと、かねて指摘されているからだ。グズグズと言い訳をして首都機能の分散を遅らせる理由はそろそろ、なくなりつつある。
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