神戸を舞台にした今年の重大ニュースを振り返る上で欠かせないことの1つは、そごう神戸店(神戸市中央区=写真)の事実上撤退だろう。そごう神戸店を傘下に収めるセブン&アイ・ホールディングス(セブン&アイ)は10月6日、エイチ・ツー・オー・ホールディングス(H2O)との資本業務提携の一環で、H2Oが同店舗の運営を引き継ぐと発表した。神戸・三宮の顔、そごう神戸店に「阪急百貨店」の看板を掲げる計画と伝わっている。ただ神戸地域で売上高トップの大丸神戸店と、2番手のそごう神戸店の狭間で、これまで百貨店としての阪急ブランドは常に輝いていたとは言い難い。好立地の2番手店舗を手に入れた阪急ブランドは、今度こそ神戸で定着するのだろうか。
■「阪急」空白地帯の神戸 H2Oはハーバーランド(神戸市中央区)にあった神戸阪急を2012年3月に閉店して以来、百貨店事業では神戸地域に店舗がなくなっていた。1995年の阪神淡路大震災までは阪急電鉄の神戸三宮駅ビルに百貨店「三宮阪急」があったが、新たに阪急電鉄が計画した同駅の駅ビルはホテルとオフィスが主体。このため、そごう神戸店の引き継ぎが三宮駅前の一等地に店舗を獲得する格好の機会になったといえそうだ。
しかも、そごう神戸店はかつての地域1番店だ。バブル経済崩壊の余波を受けて旧そごうの経営不安が広がった際は、当時黒字だった神戸店を軸に再建する計画が浮上したこともあった。結局、1995年の阪神淡路大震災によって計画は白紙になり、旧そごうは西武百貨店との経営統合を経て、セブン&アイの傘下に入った。歴史に「もし」はタブーというが、あるいは震災なかりせば、そごうは今でも神戸の地域1番店だったかもしれない。
H2Oは、そんな有利な立地の店舗を手に入れた。だから三宮の阪急百貨店は大丸との一騎打ちを考えていれば良いかというと、話はそう簡単でもなさそうだ。神戸で阪急百貨店と競合するのは、どうも大丸ではないという見方もできるからだ。
実は阪急沿線には、神戸以外にも阪急百貨店の「空白地帯」になっている大都市がある。阪急電鉄の東のターミナルである京都だ。京都での阪急のターミナルである河原町駅周辺には現在、高島屋京都店(京都市下京区)、大丸京都店(同)がある。2010年8月に四条河原町阪急が撤退したあとには、京都マルイ(同)が入居した。ここに阪急百貨店の姿はもうない。
■阪急の敵は阪急? 一方で、阪急百貨店の旗艦店である阪急うめだ本店(大阪市北区=写真、武田裕充氏提供)は絶好調だ。日本経済新聞社がまとめた「2015年度百貨店調査」によると、阪急うめだ本店の2015年度の売上高は前の期に比べて10.4%増の2183億円だった。伊勢丹新宿本店(東京都新宿区)に次ぐ全国2位で、西武池袋本店(東京都豊島区)や三越日本橋本店(東京都中央区)を上回る。近隣の競合店である大丸梅田店や阪神梅田本店が上位10位にかすりもしない中で、全国でもトップクラスの売上高を誇り、大阪キタでダントツだ。
東京と大阪の人口の違いを考えると、阪急うめだ本店にはどこから来店客が集まるのだろうかという疑問が浮かび上がる。H2O傘下の百貨店運営会社である阪急阪神百貨店(大阪市北区)は現在15店舗を運営しているが、このうちトップブランドの商品もそろう旗艦店の役割を果たすのは、阪急うめだ本店と博多阪急(福岡市博多区)の2店舗だけとみられる。つまり高級イメージの強い「阪急」で買い物をする消費者は、神戸からでも京都からでも阪急電車に乗って梅田に出るということが、今日まで京都・神戸に阪急百貨店の旗艦店が不在であることの理由ではないのか。
となると阪神間の高級住宅地を商圏ととらえ、高級感を前面に打ち出して三宮にある百貨店に誘客するという、阪急が現時点で明らかにしている戦略には一抹の不安が残る。品揃えなどが阪急うめだ本店と共通するのであれば、阪急百貨店が三宮と梅田で食い合うことにもなりかねない。むしろ昔から阪急ブランドになじみがある富裕層は、既に阪急うめだ本店の顧客である可能性が高いのだ。高級感となると、むしろ大丸神戸店は阪急の先を走る。旧居留地一帯のまちづくりに積極的に関与し、同地域に高級ブランドの路面店を相次いで開店させたのは他ならぬ大丸だ。三宮の阪急百貨店は、阪急ブランドの高級感だけで勝負できないかもしれない。
幸い、阪急が獲得したのは三宮駅前の好立地。阪急沿線だけでなく、京都や大阪に加え、姫路や岡山などからも集客できる可能性さえ持つ。大阪でも買い物するが、神戸には神戸の良さがあると消費者が思うような百貨店はどういった百貨店だろうか。神戸にはファッション産業の集積があり、年に2回はファッションイベント「神戸コレクション」で多くの人が集まるのは、「阪急」を全国ブランドに押し上げることにも寄与するのではないか。単に欧州の高級ブランドを並べるだけでなく、阪急らしく神戸らしい、新たな商業施設が神戸の顔として誕生することを期待したい。(神戸経済ニュース)
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