Kiss FM開局30周年「いかに地元に幸せになってもらうか」  横山社長に聞く

20200928KissFMKOBE横山剛社長

 FM放送局「Kiss FM KOBE」が開局して10月1日で30周年を迎える。神戸市に本社を置き、兵庫県では唯一の民間FM放送局だが、バブル経済崩壊の影響もあって開局直後から経営状態が悪化。その後も経営は安定しなかった。それでも電波を止めることなく放送を継続。2010年10月からは求人広告や人材派遣などが主力であるSRCグループの兵庫エフエム放送が同局を運営する。グループの持ち株会社であるSRCマネジメント(神戸市中央区)の最高経営責任者で、兵庫エフエム放送社長の横山剛氏(写真)に、Kiss FM KOBEの現状やラジオの今後について聞いた。(聞き手は神戸経済ニュース編集長 山本学)

 ――開局からの30年を振り返ってどう見ますか。

 「振り返ってみると、1990年10月の開局以来、Kiss FM KOBEの経営が順調だったことはなかった。最初は兵庫県で初めてのFM放送局ということで自治体も出資し、開局を地元財界も歓迎した。だが結局は資本金を食いつぶす形になり、当時の国内小売り最大手だったダイエーに支援を求めたが、その後はダイエー自体の経営が傾いてしまった。そこで2003年4月からJFN(全国FM放送協議会)に加盟して番組の自社制作比率を下げてコストを抑えようとした。だが、オリジナルの番組がほとんどなくなって、よけいにリスナーが離れていくという悪循環だった。その後、われわれSRCグループとして経営を引き受けたが、事業として軌道に乗せる戦いは今も続いている」

 ――経営を引き受けたときは、どうでしたか。

 「当時のKiss-FM KOBE社の社外取締役だった日本経済新聞の幹部に声をかけてもらったのが、きっかけになった。もともとラジオは好きだったし、損得勘定を横に置いても神戸にラジオを残したいという思いから引き受けた。民事再生で経営再建をめざしたので、スポンサーを募集したのだけれど経緯が経緯(注)だけに大手企業は手を出しづらい案件だし、当時からラジオは斜陽産業だったということもあり、誰にも相手にしてもらえない、という状態だった。そこでSRCグループとエフエム東京(東京都千代田区)、東京タワー(現TOKYO TOWER、東京都港区)の3社で立て直すことになった」

 「当時は自社制作が夕方のワイド番組だけ、という放送局としてはきわめて独自性の低い状態だった。経営が苦しい中で疲弊していたので、流れている放送の内容がボロボロだったという印象だった。また薬事法制的にグレーではないかと思われるような健康食品のCMなども多く、『これではリスナーは離れていくだろう』という状態だった」

 ――どのように対応したのでしょうか。

 「グレーなCMはお金をたくさんもらっていたが、お断りせざるを得なかった。一方で地元に密着したコンテンツの再建に取り組まないと、リスナーが戻らないと考えた。そこで朝のワイド番組を復活させ、さらに昼のワイド番組も復活させた。地方局としては番組の自社制作比率が高く、放送局としては高コスト体質になるけれど、投資が必要だと判断した。多くの人にとってKiss FM KOBEは『昔はよく聴いた』という状態だったので、ほとんどの番組が自社制作で、よく聞かれていたころのKiss FM KOBEを思い出してもらう必要があるだろう、ということだ」

 「ラジオを聞かなくなってしまった人に、往年のKiss FM KOBEを思い出してもらう一環として、高速道路から見えるビルの屋上に看板広告を出したりもした。フリーペーパーの『Kiss PRESS』も、その一環だ。Kiss PRESSは情報紙としてもウケが良かったので流通が兵庫県下に広く拡大した。戦略としては放送と、リアルの紙と、イベントと、ウェブの相乗効果で媒体としてのプレゼンス(存在感)を高め、それで広告収入を上げていこうという、先行投資の局面に入った。まっとうなマーケティング戦略だったと思う」

 ――兵庫県のラジオ聴取率トップを長らく維持しています。

 「実は当初、ラジオ局のことがよくわからなかったので、Kiss FM KOBEの経営は大学院のMBAコースに入ってラジオ局経営に関する修士論文を書くきっかけにもなった。それで理論にしたがって経営してきたつもりだが、この10年間での投資額は数億円に膨らんだ。競争相手がNHKしかない地方のラジオなら、そんなに苦労をしなくてもよかったかもしれない。FM802はじめ大阪の強力な放送局との競争がある中で結果を出せているのは、社員ももちろんだが経営もがんばった結果だとすれば、本当にありがたい」

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Kiss FM KOBE が入居する中突堤中央ビル(神戸市中央区)

 「なぜ斜陽産業にそれほどの投資をするのかと、SRCの財務担当者に疑問をぶつけられたこともある。けれど既存のメディアとは異なる軸があることによって、神戸の経済や文化がさらなる高みに到達できるのではないか、というささやかな試みだと思ってやっている。投資利回りという観点では極めて低水準だが、いつかは、なんとかなるのではないかと」

 ――他メディアとの競争はさらに激しくなる見通しです。

 「ネットフリックスなどの動画配信を中心に、ネットのメディアが一段と勢力を増す中で、ラジオのプレゼンスは向こう10年の間に一段と低下することがある程度、見えている。経営面では、さらに厳しくなるということだ。経営を引き受けてから10年が経過して、Kiss FM KOBEのプレゼンスは一定程度、高めることができたと思う。だが時代の流れに逆らって、あらゆる手を尽くして、さまざまな事業を展開しても、Kiss FM KOBEは現在のプレゼンスを維持していくのがようやく、という状況ではないか。だから、いかに低コストで現在のプレゼンスを維持して利益を確保するか、というのが事業継続に向けた今後10年の課題になるだろう。ひらたく言うと、いかにお金をかけずに、注目される面白い番組を作るかということになる」

 「それに加えて、最近流行している『両利きの経営』みたいな話で、ラジオ局としての存在感を最大限に活用しながら、もう1つの収益の柱として自社のウェブやイベントに重心を移していく。県域つまり地元の放送局の役割を考えると、情報提供を通じて地元の人たちにイベントやコンサートに向けて動いてもらうことで、生活の満足度を高めたり、経済を活性化したりすること以外にない。ラジオのプレゼンスを活用しながら、いかにリスナーのみなさんに楽しんでもらうか、動いてもらうか、幸せになってもらうかというのは、これまでも、これからも経営上で最も大事なことだろう」

<注> 1990年に創業したKiss-FM KOBEの2007〜08年度の売上高が粉飾決算だった疑いが発覚した後、資金の出所が不明で、資源採掘会社を名乗る会社が第三者割当増資に応じてKiss-FM KOBEの経営権取得に動いた。これが架空の増資であったことを確認し、資源開発会社の議決権行使を阻止。従来の株主から株式を譲り受けてKiss-FM KOBEの経営権を横山氏らが取得した。債務再編の必要性などからKiss-FM KOBEは民事再生法の適用を受け、10年10月から放送局免許などを新たに設立した会社(現在の兵庫エフエム放送、愛称は「Kiss FM KOBE」とした)に引き継いだ。

 横山 剛(よこやま・たけし)氏 1965年生まれ。甲南大文卒、89年SRC設立。2010年に兵庫エフエム放送(Kiss FM KOBEの運営会社)を設立。経営学修士(MBA、神戸大)、神戸大博士課程後期に在学中。全国FM放送協議会理事、ジャパンエフエムネットワーク取締役。

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