(解説)神戸に集積する水素ビジネス、世界を先導できるか 産業構造に影響も
- 2018/05/24
- 23:38
水素や燃料電池に関する技術の開発や標準化などを目指す国際協力の枠組み「国際水素・燃料電池パートナーシップ」(IPHE)の国際会議が11日、神戸市中央区のホテルで開かれた(写真)。横浜市と郡山市での一般向け講演会、研究会に続いて神戸で開催したのはIPHEの運営委員会と称した各国情勢の報告会だ。この会合が公開されるのは初めて。神戸を国内での水素先進地域と見立てて、エネルギー源としての水素の普及を強力に訴えるのがねらいだった。
11日の国際会議で基調講演に立った川重の原田英一執行役員は、水素を液化して貯蔵、運搬するのは「成熟した技術」だと説明した。液体水素はロケット燃料として既に流通しているためだ。川重は鹿児島県の種子島にあるロケット打ち上げ施設に液化水素タンクを提供しており、ここ20年でみて特に大きな故障などもなく確立された技術があるという。ただ、燃料電池の実用化など、水素の用途を大きく広げる技術がここ10年程度で大きく進んだ。
水素には未知数な部分もある。川重などがめざす世界的な水素供給網の元になる水素は、褐炭(かったん)という石炭の一種から作るため、化石燃料依存との批判も出ている。だが、現在の主力エネルギー源である石油は産地が中東に偏っており、価格が市況に大きく左右されるのが弱点だ。使用時に二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーというだけでなく、原子力に将来の希望を抱きづらくなった現状では、代替エネルギーとしても水素に期待が膨らみやすい。もし海水を電気分解して水素を低コストで作れるようになるならば、四方を海に囲まれた日本にとっては、とても調達しやすいエネルギー源になる。
昨年12月に決定した政府の「水素基本戦略」では2030年の目標に、ガソリンや液化天然ガス(LNG)と同等程度のコストで水素を使えるようにすることを掲げた。想定どおり実現すれば、そのときに川重や、共同で神戸市内でのプロジェクトを進める大林組、岩谷産業、電源開発(Jパワー)などは国内外の水素を巡るインフラ整備などで、主導的な役割をはたすことになるだろう。水素の神戸ブランドが世界を席巻するというわけだ。
川重が造船施設のある神戸工場で建造する船も、従来の貨物船などから水素運搬船に変わってくる。神戸市内の大企業では、神戸製鋼所もFCV向けのガソリンスタンドに相当する「水素ステーション」向けのユニットや技術を相次いで発表している。神戸市は中小企業に「環境・エネルギー」分野への新規参入を促す補助制度で後押しし、関連する部品などの供給網構築に向け環境も整いつつある。水素社会の到来は重厚長大から一歩進んだ重工業の新しい形を示すと同時に、神戸に産業構造の変化を誘う可能性も大きい。(神戸経済ニュース 山本学)
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