(解説)具体的に事業を明示すべきだ 「神戸らしいファッション文化振興」条例案

20210504神戸らしいファッション文化条例案

 3月に神戸市議会の経済港湾委員会で議論が始まった「神戸らしいファッション文化を振興する条例」は産業振興として、もっと具体的にどういった事業を展開するのか明示するべきではないのか。神戸が西洋文化を取り入れる日本の窓口だった歴史を振り返るのは悪いことではないが、まず法律や条例で消費者の嗜好は変えられないという、現実的な視点に立つべきだ。そのうえで行政が支援する範囲を具体的に記述する必要がある。加えて、行政の介入がかえって産業の競争力を低下させる可能性にも配慮が必要だ。


 条例案によると第1条に定める目的として「神戸らしいファッション文化を振興することにより、これを次世代に引き継いでいくことを目的とする」とある。このほか条文からは、行政と業界が市民に対して、地場産品を優遇するようなライフスタイルを啓発することで、生活の中に地場産品を定着させるねらいが読み取れる。背景には「神戸の住民は、もっと神戸産の物を消費する余地があるはず」という思い込みがありそうだ。

 しかし神戸で長年ファッション産業と定義してきた洋菓子やパン・コーヒー、真珠なども含めた広い意味での生活文化産業は、ひとことで言うと嗜好品だ。水や電気といった生命に関わる品目でも、洗剤や冷蔵庫といった生活に欠かせないものでもない。かなり付加価値の高い商品群といえ、どうしても所得や好みに応じた消費になるだろう。その販売戦略の立案に行政が携わるのは、やはり無理があると考えざるを得ない。

 具体的に例を考えてみよう。たとえば子供のころからコーヒーが苦手だという人にとって、コーヒーの割引券配布に税金が投じられると、税金のむだづかいと感じるだろう。そもそもコーヒーを生涯飲まないからといって、普通に生活するのに特に不都合はない。しかも、この施策で最も恩恵を受けるのはコーヒーを製造する営利企業だとすれば、不公平だと納得のいかない人は多いのではないか。結果としてコーヒーのファンは増えず、産業育成にならない。

 神戸市内の会社が中心になっている業界団体が消費拡大に向けたキャンペーンを展開するとき、神戸市が補助金を出すケースなどはあり得るだろう。三宮駅前に地場産業を紹介するアンテナショップの開設を業界が神戸市に求めるのも、うなずける。だとすれば、それら個別の事業のためにルールを設定すればよいのであって、経営権の一部ともいえる広報方針や設備投資方針などの決定権について、包括的に神戸市役所が口出しできるようにすることは、おそらくよい結果につながらない。

 神戸市議会は2014年に議員提案で「神戸灘の酒による乾杯を推進する条例」を可決し、同条例は現在も有効だ。日本酒での乾杯条例は全国各地の自治体にあるが、それでも日本酒の国内消費量は年々減っている。地場産業の振興や育成は、雇用確保の観点からも重要だが、規制緩和以外に条例にできることはあまりない。忘れてならない最も大事なことは、「売り方」を考えるのは「売り手」でなくては実効性と持続性が備わらず、競争力は多様なアイデアの中からしか生まれないということだ。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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