(解説)消費者物価が横ばい、日銀の「異次元緩和」も曲がり角



 7月の神戸市の消費者物価指数(CPI、生鮮食品除く総合、2010年=100)が前年同月比で横ばいになり、前年比プラスで推移した記録が26カ月で途絶えた。全国的に見ても物価が横ばい圏内で推移しており、このことは日銀が進める「異次元の金融緩和」を通じた景気の浮揚策が当初の目論見通り進んでいないことを改めて示した。

 円安などを背景に企業が負担するコストが増加する中で、それを販売価格に転嫁できていないケースも多いとみられる。商店街の小売店など中小・零細企業が利益を上げにくい構造が続いているともいえ、日銀は政策目標やその手段として掲げる金融緩和策などの方針転換を迫られる可能性がある。

20150801消費者物価

 グラフに示したのは、全国と神戸市のCPIの推移だ。2013年4月に日銀が異次元緩和を打ち出してからも横ばい圏内で推移していた物価は、消費税率引き上げに伴って2014年4月に2〜3%程度上昇した。その後は再び横ばい圏での推移が続いている。

 政府・日銀はデフレつまり物価の下落こそ不景気の元凶と位置づけ、金融緩和を進めて市中の資金を増やせば物価の下落は止まり、景気は回復に転じるとの論理を展開した。日銀は通貨の供給量を増やすことを念頭に、国債の買い取りなどで金融緩和を進めてきた形だ。

 ただ多くの専門家は日銀の施策に懐疑的だった。現在でも、物価の下落が原因になって不景気になったのではなく、不景気の結果として物価が下落したとの見方が経済学者などの間では大勢と言える。実際、日銀は2013年4月から2年間でCPIを2%引き上げると表明していたが、2年以上を経た現在も消費税率引き上げ分を除いては、CPIが上昇する気配が見えない。

 一方で金融緩和は、長期金利の低下を通じて円相場の下落という副産物をもたらした。米国の利上げ観測などもあって円安・ドル高が進み、この2年間に円の価値は対ドルで3分の2以下(IMF方式)に下落した。自動車などの輸出企業の利益が巨額に膨らんだほか、ドルに連動しやすい人民元の購買力が相対的に強まったことから中国から日本への観光客が増えた。米国の地下鉄車両を受注した川重なども含め、円安の恩恵を受けた企業は少なくない。

 しかし、電力料金の上昇は幅広い産業で打撃になり、さまざまな輸入品の物価は上昇。神戸港の15年1〜6月期の輸入額は、1〜6月として過去最高になった。円安で企業が負担するコストは上昇したわけだ。大手メーカーが希望小売価格の引き上げを相次いで発表しているのも、このためだ。特に飲食や服飾など神戸にとって重要な産業は、原材料や素材など輸入品の仕入れが必要になるケースが多い。仕入れコストが上昇してもグラフが示すように販売価格(店頭価格)に転嫁できないなら、企業の経営は苦しさを増すばかりだろう。

 金融緩和で市中にあふれ出した資金は結果として、株式市場や不動産といった資産市場に向かっているようだ。2008年の米投資銀行リーマン・ブラザーズの破綻をきっかけとした不景気(リーマンショック)の後に、日銀よりも積極的に金融緩和を進めた米国が利上げ(金融引き締め)を模索する背景には、不動産バブルに対する懸念があるとの見方も多い。

 2020年の東京オリンピックに向けて首都圏の不動産価格も値上がりが目立っている。日銀が現状の金融政策を維持するようだと、東京はもとより地域経済の健全な景気回復を阻害するとの批判も出かねない。
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