久元神戸市長に聞くコロナ禍(2)「リアル経済の変容に価値観ゆれ動く」


 阪神淡路大震災があった1995年にネット社会が始まったと言われているが、ネット社会によってリアルの社会も変容し、限りなく仮想社会が入り込んできた。さらに拡張現実(AR)によってリアルの世界とバーチャルの世界が融合し、リアルの世界のありようが変わってきたことも間違いない。それでも人間が物理的に存在する限り、大都市がまったく仮想都市に移行することはなく、大都市は基本的に大都市であり続けるだろう。

 かといって、コロナよりも前の世界に戻ることはできないのではないか。大都市に対して注がれる眼差しや、大都市に暮らしている人間や、大都市のなかでの経済活動がかなり変容を迫られていることも事実だ。この変容のあり方や感じ方や価値観は揺れ動いている。

 たとえば、コロナは大都会の病気であるということは、はっきりしている。きわめて狭いエリアに人々が集まって暮らし、集まって仕事をしていることがコロナの感染を引き起こしている。高密度を至上とする価値観が見直される可能性はかなり高い。ただ実際の人口移動を見れば、東京からの転出超過が示される一方で、都心に回帰する人の動きもあり、最終的にどうなるかは慎重に様子をみる必要がありそうだ。

20201225茅葺き屋根
神戸市北区道場町にある茅ぶき屋根の民家

 そうした中で大都市として神戸に何が求められるかを考えると、人が集まって仕事をするという現実が変わらないのであれば、オフィスの中の密度を下げ、換気もしやすくして、外に開かれ、物理的な距離を確保できるような都市に変えていくことが求められている。

 さらに高密度の中に人が暮らすのではなく、もっとゆったりとした自然環境のなかで、職住近接という形で仕事をするとか、人口密集地の仕事をネットで請け負って仕事をするといった生活のスタイルも求められている。これが六甲山上スマートシティーや、里山居住への提案だ。この2つの構想は、実はコロナ前に組み立てたものだ。だがウイズコロナの時代において、より価値を獲得するのではないか。六甲山や里山から都心までの物理的な距離を補完するのが仮想都市、つまりネットワーク社会のことだろう。

 つまり人間はバーチャルな存在に起き変わらない。「攻殻機動隊」(注)には草薙素子(くさなぎもとこ)という女性が出てくるが、おしゃれなカクテルを飲んだ後に、トイレに行くことはない。アニメだからそれを描かないのは当たり前かもしれないが、人間が人間である限りはトイレにも行くし、冷や汗も流すものだ。そうした目の前の現実は、簡単に変わるとは考えにくい。

 ただ具体的な施策となると、論争が続くのではないか。たとえば、私は現実の本がそろっているのが図書館だと思うが、すべてを電子図書館に置き換えるなら、いま力を入れている図書館整備の努力は徒労に終わることになる。市民の財産としての図書館が今後どうなるのかは、将来の私たちや次の世代の選択だ。赤ちゃんの時からスマホやタブレットを渡されて、画面を通じて絵本を読んでいる子供が多数になっている。そういう子供たちが大人になって、社会を支えるようになった時、いまの本に価値を認めるかどうか。

 ――しばらく続くウイズコロナ時代を、どう展望しますか。

 コロナの第1波が少しおさまったとき、市役所の幹部を対象に、ある科学史の先生に講演していただいたところ、知らないことがたくさんあった。まず人類はずっと感染症と戦ってきたという話だった。英国のエリザベス王朝の時代やシェークスピアの時代は演劇が盛んだった時代だが、その時代にも感染症は起きて、感染が広がったら上演を休んで、感染しにくい田舎に行くといったことが、しばしばあったそうだ。

 感染症は戦争とともに広がることが多かったという。日本の近代を見ても、戊辰戦争、西南戦争、いずれも感染症が広がっている。多くの戦死者は感染症によって亡くなっている。こうした傾向が最も顕著に、きわめて大規模に表れたのが第1次世界大戦で、その末期にスペインかぜが大流行した。ベルサイユ講和条約の出席者がかなり感染したそうだ。日本も1918年から1921年にかけて流行し、内地で約38万人、台湾と朝鮮を合わせれば約74万人の死者が出て、神戸市内でも約7000人の方が亡くなった。その後も戦争と感染症の関係はずっと続いたとされている。戦後は復員の関係もあって、こうした感染症は1960年代に入ってやっと治まったという。

20201225久元市長B
インタビューに答える久元喜造神戸市長

 こうしたことを振り返ると、今回のコロナ禍というのは、ある日突然、隕石(いんせき)が落ちてきたような、不意を突かれたとも言いがたい面がある。衛生状態がよくなって、感染症に対する経験が減っていたところに感染症の再来があったと考えるべきなのだろう。本来は驚くことではなく、コロナへの戦いの大きな部分は過去に学ぶところがある。同時に、感染しているのがまったく新しいウイルスということで、新しいワクチン、治療薬、検査方法が求められる。古い知識と新しい知識の両面が必要なのではないか。

 ウイズコロナの時代は当面続くが、やるべきことの基本は明確になってきた。1つは、症状のある方は診察を受けられるようにして、相談にきっちり乗るようにする。次に、個人の感染の有無をきちんと確認して、全体的な感染状況を把握する。そして医療をしっかり提供する。この3つだ。そのうえで感染状況に応じて、経済活動を拡大させるのか、収縮させるのか、柔軟に判断するということが重要だ。より長期的な視点では、神戸の持続的な発展を考えたまちづくりを、コロナの中にあってもしっかりと進める、ということになるだろう。

(注)「攻殻機動隊」(こうかくきどうたい)
 神戸出身の漫画家・イラストレーターである士郎正宗氏の原作によるマンガ・アニメシリーズ。脳をコンピューターに接続して高度な情報通信能力を身につけたり、四肢を機械化して高い身体能力を得たりと、人間をはるかに上回る能力を持つ多くのサイボーグの登場人物を通じて、人間とは何かを描き出す。主人公の草薙素子も脳とせきずい以外を機械化したサイボーグという設定。2015年に神戸市は広報プロジェクトで「攻殻機動隊」と連携した。

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