久元神戸市長に聞くコロナ禍(1)「心のありようも準備不足だった」
- 2020/12/25
- 19:48
2020年を振り返ると、間違いなく「新型コロナウイルス」の1年だった。多くの行事は中止になり、子供は学校に通えず、経済活動が大きく制限された緊急事態宣言も初めて経験した。新型コロナはさまざまな方面に打撃を与えたが、「転んでもタダでは起きない」ために、ここから何か学べることがあるのだろうか。あるいは、新型コロナで経済・社会が向かう方向は変わったのだろうか。神戸市で新型コロナ対策の陣頭指揮を取った久元喜造市長(写真)に、新型コロナと経済・社会の関わりについて、いま思うことを聞いた。
(聞き手は編集長 山本学)
――新型コロナは行政にどういった影響を与えましたか。
まずコロナ禍に直面したときに、行政がやらなくてはいけないことは、市民の命を守るということだ。1人でもコロナで亡くなる方を少なくする、人命を救うということ。ただ、コロナによる行政へのインパクトを考えると、やはり感染症に対する備えは必ずしも十分でなかったということがいえる。必ずしも神戸市だけが準備不足だったというわけでもなく、日本全体として不十分だった。あるいは世界全体としても十分ではなかったかもしれない。それは反省点だ。
われわれの心のありようとしても、準備は不十分だった。武漢で感染が広がったときに「あれは中国での話だ」と思っていた。豪華客船のダイヤモンドプリンセスで感染が広がった時に、「あれは船の中で起きていること」だと思った。日本中で蔓延(まんえん)するかもしれないという予感はあったけれども、それが起きてほしくないという気持ちがどこかにあった。多くの人がそうだったのではないかという気がする。それは反省しなくてはならないだろう。
物理的な対応は各自治体でベストを尽くしたと思うが、普段用のマスク、サージカルマスク、医療用の防護服、消毒用アルコールなど、時期によって物は変わったが、いろいろな不足が発生した。やはり準備は十分ではなかった。
ただ、神戸はこれまでたくさんの地域と関係を結んでいたおかげで、たくさんの支援をいただいた。なかでも印象深いのは、南相馬市(福島県)から2000着もの医療用の防護服を神戸市に寄付すると申し出を受けたことだ。南相馬市に対して、台風被害の復旧を手伝うため職員を神戸から派遣していた。これが相馬市の役に立ったということで、原発被害に備えて取ってあった防護服を神戸に寄付すると申し出を受けた。
南相馬市の市長さんに、「これは本当にありがたいけれど、南相馬市にも感染が広がる可能性があるのに、いただいていいのですか」と聞き直した。すると先方は「ぜひ使ってください」と。「いま神戸市さんが困っているのですから、私達の感謝の気持ちを込めて寄付させていただきます。足りなかったらまた、いつでもおっしゃってください」と言っていただいた。本当にうれしく、ありがたいと思った。このほかに海外からも、いろんな支援があり、大変感謝している。
――コロナ禍の中で神戸は日本や世界に貢献ができたでしょうか。
コロナに対しては試行錯誤でやってきたが、われわれの強みは神戸医療産業都市であったことは間違いない。たとえばスーパーコンピューター富岳が飛まつの飛び方に関する研究に関わったり、医療従事者の感染リスクを減らすPCR検査ロボットが開発されたり、集中治療室の遠隔コンサルも神戸医療産業都市から出てきた。コロナと格闘して経験を得た中央市民病院のドクターが、集中治療室向けのアドバイスという形で、別の病院と知識を共有した。
PCR検査ロボット(資料写真)
神戸医療産業都市から生まれた技術やサービスが世界中で使われるようになれば、世界の人々の健康に貢献することになる。コロナの感染など起きないほうが良いに決まっているが、コロナとの戦いのなかでは、神戸医療産業都市の取り組みが功を奏した面もあるといえるだろう。
――コロナ禍によって「情報通信技術」「仮想空間」の存在感が一段と高まりました。
確かにそうだが、コロナをきっかけに私たちの社会が全面的に転換してしまい、リアルの世界がバーチャルの世界に完全に置き換わるとも思えない。現実に人間が生きている限り、リアルの世界が消失してしまうことはないだろう。人間が衣食住を満たすことを目指して日々の暮らしを営むのは、人間である限り変わらない。人間は世界をどう把握するのか。やはり五感を統合して、相手の目を見て、相手の言葉を聞き、香りを感じ、感触や味覚も使って世界を把握するのは、おそらく変わらないと思う。
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