(解説)神戸市債の残高が20年ぶり実質増加、「震災財政」の終幕を示す 

20200822神戸市債残高

 神戸市が21日に発表した2019年度の決算によると、市の借金を示す神戸市債の実質的な残高が1999年以来20年ぶりに増加したことが明らかになった。1995年に発生した阪神淡路大震災からの復興費用がかさんだことで財政が悪化し、回復のために一方的に支出を切り詰める緊縮財政、いわば「震災財政」の終幕を象徴した。それでも19年の決算で財政の健全化を示す指標は、改善が続いた。大都市の経済運営において行政の重要な役割である「インフラ整備」が、ようやく他都市並みにできる財政状態にまで回復したことを示す。

 神戸市債の内訳については、大きく2種類に分けることができる。1つは神戸市が資金調達のために独自で発行する神戸市債。もう1つは、国の財源不足のため、地方交付税を支給する代わりに一時的に神戸市に発行(借金)させる神戸市債だ。後者は「臨時財政対策債(臨財債)」と呼ばれ、償還(返済)資金に国が交付税を手当てすることになっている。09年度以降、神戸市債の残高を押し上げてきたのは臨財債。神戸市の独自財源で返済する必要がある神戸市債の残高は、2000年度から減少が続いていた。

20200821神戸市債残高

 神戸市が市債の発行を減らし、残高の削減に力を入れてきたのは、神戸市債の残高が増えすぎたためだ。95年1月に発生した阪神淡路大震災で復旧、復興のための支出はやむを得なかったが、結果として97年度末の市債残高は1兆7994億円になった。臨財債の発行は01年度からなので、この時点ではすべてが神戸市独自の借金だ。97年度の市税収入は2929億円。年間の税収の約6倍にも膨れ上がった借金を返済するには、削れる支出をすべて削るしかなかった。このため震災で倒壊しなかったインフラは更新せずに使い続けることになる。

 だが神戸市の財政状態は足元で改善が顕著だ。債券格付けの国内大手である格付投資情報センター(東京都千代田区)は、すでに2015年4月に神戸市の債券格付を1段階引き上げ「AA+(ダブルAプラス)」とした。神戸市債への投融資は安全度が高まったという意見表明だ。財政指標でみても、借金返済がどれほど年間の財政の負担になるかを示す「実質公債費比率」、借金の規模が財政の規模に対してどれほど膨らんだかを示す「将来負担比率」ともに低下が続く。15年以降は、この2つの財務指標がともに政令市の平均を下回って推移している。会社でいえば倒産寸前だったのが、健全経営といえるまでになった。

 とはいえ一般の会社でもそうだが、借金は少なければ少ないほどよいとも限らない。特に橋や道路といったインフラ整備に関しては、長い年月で使い続ける。幅広い世代の人の間で負担を共有する観点から、わざと住宅ローンのように返済を時間的に分散するのが合理的だろう。19年度に神戸市が新長田合同庁舎や、主に兵庫区役所の庁舎建設で神戸市債の残高を増やしたのは、長期的に利用する施設の建設投資が目的だった。それでも19年度の実質公債費比率と将来負担比率は、前年度に比べて低下した。財政的に無理のない範囲の支出で、庁舎建設ができたことを示したといえる。

20200701三宮事業費

 神戸市の試算によると、三宮再開発では2050年までの30年間に神戸市の負担額は1570億円になるという。単純平均すれば年52億円の負担になり、神戸市債の発行によって資金調達するのが妥当だろう。今後は超高齢化による医療費の増加で、義務的な支出が増えて財政は硬直化が予想される。そうした中でも急速な税収減などに見舞われない限りは、市債をうまく活用することで三宮再開発を中心とした、これまで他都市に出遅れたインフラ投資を集中させても乗り切れる公算が大きい。20年ぶりの臨財債を除く神戸市債の残高増は、そうしたシナリオが実行段階に入ったことを示したともいえる。

 もっとも最大のリスク要因は、政府が臨財債についてどう考えているかという点だ。国の財源不足が一向に解消されない中で、神戸市以外でも臨財債の残高が増えている。これは国債残高に表れない国の「隠れ借金」ともいえるが、耳をそろえて国が返済するのはいつか。国の財政は規模こそ大きいが、自治体以上にひっ迫している。政府は国債だけでなく、全国の自治体が発行する臨財債も自らの負債と明示して、財政再建の方針を示すべきだ。臨財債の増加で混乱するのは国の財政なのか自治体の財政なのかは分からないが、自治体への納税者も、国への納税者も実は同一人物だ。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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コメント

No title

確かに臨財債の存在は後々メディアの中で不勉強者が取り上げる問題になりそうですね。過剰に心配するとメディアによる政局争いの種になりますから、私個人としてはお取り扱い注意です。かつ財政学を批判する立場からの視点も重要です。
まぁ表は財投債の短期消化バージョンと言うべきでしょう。国内機関投資家の「愛」がある=投融資の内側に回収可能性があるうちは大丈夫らしいですね。お隣の大阪市は神戸市よりも臨財債が積み重なっています…。それぐらい大阪市も厳しいということなのですよ。「愛」ゆえにということですが、これを批判してもなんの生産性もないと思います。全てを東京のせいにするというのも、一理ありますが、しょうがないことですし。そもそも誰かの負債が無ければ、銀行も成立し得ませんので。しかし自治体財政も国からの交付金なしでやっていくのは無理なのは到底わかっていることですが、産業が減っている神戸のことを考えると、暗い気持ちになるのもわかります。根本は人口減ですが、インフラ整備の不完全だけでなく労働力を東京大阪に集めすぎているようにも感じます。それに神戸は灘東灘の高級エリアだけではありません。神戸で暮らすとはどういうことかをもっと仔細に見つめていかなければますます出ていくだけですし、仕事がない街は根本的に魅力がないです。仕事をまず増やすことです。
それと日経の記者さんって負債についての認識はどういうものなんでしょうか?どう先輩から教わるのでしょうか?
通り一遍で借金が悪いといっても、「投資」もそもそも事業主体の返済先の借金みたいなものでは?と言われないとポジティブに受け入れることが出来なくなるものなのでしょうか?とはいってもやり過ぎも良くないですけれど、しかしずっとデフレの状態ですから、借金という制限ではない指標がもし財務省にあるとするならそれを言葉で出して欲しいというのが個人的な感想です。

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