
神戸市の寺崎秀俊副市長は10日、12日付で退任するのを前に記者会見した。18年4月に副市長に就任し、通常は4年である任期の約半分で退任する。13日付で総務省に戻り、自治税務局企画課長に就く予定だ。記者会見の冒頭で神戸市出身の同氏は「総務省の人間は、ふるさとで働くことは極めてまれ」という。そうした中で「久元(喜造)市長の元で神戸が大きく変わろうとする時期に、2年3カ月と長い時間ではなかったが、ふるさとで働けたことを本当に嬉しく思う」と話した。改めて神戸の魅力と課題を実感した結果「史上最大体重」になった、とも語った。
記者会見での主なやり取りは以下の通り。
ーー神戸では、どんな課題を実感したか。
「子供のころにあった『ポートピア81』のことを思い出すと、神戸は光り輝く都市だった。子供心に誇らしく感じた。いま世界一のスーパーコンピューター『富岳』があるとはいえ、いまの子供たちは神戸を『誇りをもって語れる』ということが、私の子供のころに比べるとちょっと少なくなっているのではないか。それは、人口減少ということにも表れているのではないか」
「子供たちが誇れる街『神戸』として光り輝いてほしいと、格差の問題や、福祉・子育てといった担当した問題を通じて感じることもあった。そして、この先もっと神戸が発展するために課題もいくつかあるなと感じた次第だ」
ーー副市長として特に印象に残っていること、やり残したことは。
「着任の際に市長に言われたのは、特に子育て支援に力を入れてくれということだった。特に待機児童ゼロに向けた取り組みで、保育士の確保であったり、保育所の新増設といったことに、こども家庭局とともに取り組んできた。待機児童がゼロにならなかったのは残念だが、一定の成果は出たのではないか」
「一方で教育の分野では、垂水のいじめ再調査に始まり、須磨の(教員間いじめ)問題も含めて、課題が噴出した2年間でもあった。市長部局が教育行政支援課というのを作って教育委員会のサポートを始めたが、まだ実感として大きく変わったと胸を張るところまで至っていない。だが子供たちのこと、神戸の教育のことを考えておられる方はたくさんいるので、必ず信頼を回復して神戸の教育が光り輝く日が来ると信じている」
--格差の問題や、児童虐待についても課題を感じたか。
「全国的な問題だが、神戸でも児童虐待があったり、経済的な困難に直面されている母子家庭が増えているという実感がある。残念ながら格差は縮小方向には働いていない。特にコロナ禍のなかで、弱者が特に痛んでしまうということが起きているのではないか。見えにくいことではあるが、生活相談窓口などの状況を聞くにつけ、実感せざるを得ないのは事実だ」
ーーやはり1番の問題は人口減少対策ではないか。
「日本全体の人口が減っているが、都市の活力のバロメーターの1つが人口である以上、住む人が住みたい街にすることは重要。子育て世代であれば教育であり子育て環境が必要だと思う。高齢者であれば、私が取り組んだなかでは認知症対策の神戸モデルで先駆的なことをやれたと思っている。子供からお年寄りまでが、神戸に住むことの安心・安全を感じていただく。そして選ばれる街であるべき、というのが1つ」
「もう1つは雇用の問題だ。魅力ある職場が神戸にあること。途中から新産業の分野を担当したが、まもなく開設する国連機関(UNOPSのスタートアップ連携拠点)が神戸に立地するであるとか、神戸医療産業都市も着実なステップを踏んでいる。スタートアップ支援のアーバンイノベーション神戸も順調。神戸は150年前に開港して、いろんな文化を受け入れて都市になったのだから、ぜひスタートアップなど新たな分野を受け入れ、女性も若い学生も楽しく仕事ができる環境が大事だと思っている。そのうえでBe Smart Kobeとか、六甲山スマートシティ計画というのが今後期待されるところ」
ーー「史上最大体重」になった神戸の魅力とは。
「各地に赴任すると、これまで必ず作ってきたのがお好み焼き。これまでは各地の人に私が作りかたを教えるというシーンが多かったが、神戸では自分で焼くのをやめた。周りのレベルが高すぎるのだ。どの店に行っても個性豊かでとても美味しい粉物があるのには脱帽した。もう1つは私の好きな中華で、街の中華料理店のレベルの高さ。そして魚のおいしさ。肉は当然だけれど『食の都』の神戸を体で実感した」
ーー人口減少時代に東京以外の大都市には何を期待するのか、その中での神戸の役割は。
「新型コロナの感染拡大をきっかけに東京に住むことに何の意味があるのか、というのを考え出した人が多いと思う。あれだけの過密な空間で、感染リスクも高い。リモートによって仕事も教育もさまざまにできるようになった。ただ都市の住民が急に完全な『いなか』に移り住むのは難しい。そんな中で、集約された都市機能と自然豊かな後背地が一体となった都市、これは神戸に限らないかもしれないが、そういったところが多極分散型で光り輝いていくのが、これからの日本の発展モデルだろう」
「神戸は都市機能が集積し、交通は新幹線、港、空港、高速道路と集約されているのでとても便利。しかも山を1つ越えれば非常に自然が豊かな空間が広がっている。外国人のみならず日本人でも、コロナの時代において選択される要素をものすごく持っているのではないか」
--地方の魅力はこれまで何度も強調されてきたが、一極集中は止まらなかった。今回は違うのか。
「東京一極集中をどのように是正するのかは永遠のテーマで、これまでなかなか進まなかった。ただ今回はかなり日本人の意識の深いところに(過密都市への危機感が)入ってきたのではないか。日本のみならず、大都市は感染リスクが高いというのは全世界共通の課題だ。それにICT(情報通信技術)ができてきたのも大きい。ほとんどリモートでできてしまうという環境になったので、今回こそ大きなチャンスではないのかと思っている」
--総務省で生かせそうな神戸市副市長としての経験は何か。
「これまで熊本市の副市長も4年経験しており、政令市の副市長を2回経験したことになるが、前回と今回の最大の違いはコロナ対策を最前線で指揮する経験を得たことだと思う。これから当分、国もコロナ対策をありとあらゆる場面で考えなくてはならない。その中で、この4カ月間さまざまな問題、特に4月以降に院内感染が拡大する中で医療崩壊に対する危機感などは、大きな経験を積ませていただいたと思う」
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