(解説)神戸市の里山活性化、コンパクトシティと矛盾? 「高密度と違う価値」
- 2020/06/22
- 01:02
1日に開催した北神急行線の引継ぎ式、谷上駅にて
1日に北神急行電鉄を神戸市営地下鉄の北神線に移管してから、神戸市の久元喜造市長は北神地区を念頭においた「里山居住」に関する発言を増やしている。これに先立つ5月14日に神戸市は「里山・農村地域活性化ビジョン」を発表。新型コロナウイルスはじめ感染症が改めて人類の恐怖として再認識されるとすれば「高密度重視の社会は反省を迫られる」と久元市長は主張。新たな住まい方、働き方を求める人に対応する空間が神戸市にはあると考えているようだ。
今月1日に谷上駅で開いた北神線の引継ぎ式で久元氏は「(新型コロナウイルスと共存する)ウィズコロナの時代には、豊かな自然環境の中でゆったりと暮らすライフスタイルが見直されていくのではないか」と述べた。さらに12日夜に東京大学まちづくり大学院での講義でも「都市の時代が終わるわけではないが、それに疑問を持つ人が現れたり、違うライフスタイルを求められる時代ではないか」という。神戸市の「里山・農村地域活性化ビジョン」では農業振興と同時に、農村地区への移住や定住を促すことも1つの柱になっている。
ただ、東大まちづくり大学院の受講者が久元氏に鋭い質問を浴びせていた。里山地域への移住促進は、郊外での都市的な都市利用を抑制して中心市街地を活性化する「コンパクトシティ」の概念とは矛盾するのではないか--。人口減少時代には、自治体の歳入も徐々に減っていく。行政コストを抑えて都市の持続可能性を高めるためにも、コンパクトシティの概念を取り入れた都市政策は必須というわけだ。一定の街区内に人口を集中させられるとあって、神戸市が規制する都心地域のタワーマンション建設を推進する理由の1つとされることもある。
これに久元氏は「疑問は当然ありうる」としながらも「今後の街づくりの基本は、駅前にできるだけ近いところに住んでもらうということ」と即答していた。神戸市北区・西区の場合、神戸電鉄の駅から徒歩数分の里山地域はありうる。しかし「非常に難しいのは、現実に駅から離れたところに住んでおられる方を見捨てるということは自治体としてはできない」という当然の原則がある。「どうやって時間をかけて、駅から近いところに住んでもらうよう誘導し、コンパクトシティという考え方も取り入れながら同時に、高密度重視とは違う価値を提示できるか」が課題だと自ら認めていた。
神戸市北区道場町のかやぶき民家=資料
実際、神戸市は人口密度が1平方キロメートルあたり5000人を超すなどの条件に当てはまる「人口集中地区(DID)」に該当する地域が全市域の約3割にとどまる。六甲山や須磨海岸のような都市のリゾートと呼べるような自然地形もある、世界的に見ても珍しい人口100万人超の大都市だ。豊かさを考えるうえで大きな要素が多様性だとすれば、行政のトップである市長が「神戸という広いエリアでは、全体としての(都市政策の)考え方を提示しながら、地域に合った街づくりができるのではないかという希望は持っている」というのは1つの良いしらせだろう。
ただコロナ禍で人類が経験したことは、もっと時計の針を前に進めることかもしれない。そもそも久元氏が東大まちづくり大学院で講義できたのも、それを神戸経済ニュースが取材できたのも、手軽に使えるテレビ会議システムの登場が大きい。米有力ベンチャーキャピタルと組んで、神戸市が力を入れるスタートアップ(起業家)支援の1つ「500 KOBE Accelerator」も今年はオンラインでの開催が決まった。情報通信技術が日進月歩で進化する中、都市の存在意義や、感染症のリスクを冒してまでも人々が都市をめざす理由については今後、意外に厳しく問われる可能性もあるのではないか。
(神戸経済ニュース編集長 山本学)
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