(解説)東京五輪の2020年、今年のうちに神戸で必要なことは 年頭に
- 2020/01/01
- 04:57
東京・オリンピックパークと国立競技場
東京五輪・パラリンピックを開催する2020年が始まった。ゴールデン・スポーツイヤーズと呼ばれる3年間の2年目だ。神戸に本拠地を置くスポーツ用品メーカーといえば、まず名前が挙がるアシックス。東京五輪の組織委員会とは「ゴールドパートナー」の契約を結ぶ上位スポンサーの一角を占める。住友ゴム工業は、ダンロップのブランドでテニスボールなどを提供する。世界的にも発信力の高いスポーツ大会を通じて、グローバル企業としての地位を固める機会になる。
■本番は2021年
とはいえ神戸にとってゴールデン・スポーツイヤーズの本番は2021年だ。21年5月14日には生涯スポーツの国際大会「ワールドマスターズゲームズ2021関西(WMG)」が開幕する。多様なスポーツする人を大量に国内外から迎え入れるという、珍しい経験が待っている。さらに9月には10日間の日程で「世界パラ陸上」をユニバー記念競技場(須磨区)で開催。世界トップレベルのパラ陸上選手が神戸に集まる。東京の盛り上がりを横目に見ながら2つの世界大会に向けて、最終的な詰めの準備をするのが、神戸の1年間になるだろう。それぞれ特徴のある両大会の開催に向けては、通常のスポーツ大会の事前準備以外にも、必要になることがありそうだ。日数計の除幕式に臨む井戸知事(右)ら
加えて2府7県という広範囲で開催するWMGについては、どの競技に出場するためには、どの交通機関を使えばよいかといった、出場者の動線計画を早めに周知してほしい。WMGの選手募集は個人が21年2月末まで、団体が同3月末までの予定だが、それ以降の発表では5月14日の開幕まで時間が少なすぎる。選手の募集を開始する今年2月以降、動線計画とともに選手の応募状況をできるだけ高い頻度で発表して、正式な競技種目35競技、オープンの31競技の開催地が物理的にも気持ち的にも準備しやすくすることで、開催地住民の混乱も防げるし、出場者の快適度も高まるだろう。
■見えないレガシー
そのうえで世界パラ陸上を開催する神戸には、「見えないレガシー(遺産)」を期待したい。神戸観光局の尾山基会長(アシックス会長CEO)は、世界パラ陸上について「フランスのパリと競り勝って神戸開催が決まった大きな要因の1つに、神戸の方がエレベーターを設置するなどの改修がしやすい、ということがあった」という。東京パラリンピックよりも「神戸の方がバリアフリーの面で優れているという評価を得られるのではないか」と話していた。施設の整備が進むことで、まず見えるレガシーが残る。 WMGや世界パラ陸上を控えた21年春には、地上29階・地下3階建ての神戸阪急ビル東館が開業する予定だ。同ビルはJR三ノ宮駅や阪急神戸三宮駅と、世界パラ陸上の会場であるユニバー記念競技場に向かう神戸市営地下鉄との結節点になる。新築されるビルだけに、高いレベルでのバリアフリー性能になるだろう。
これを機に目に見える施設が充実するだけでなく、交通機関を中心に、健常者の間でもバリアフリーに対する理解が深めることはできないだろうか。都心を歩くときでも周囲の援助が必要な人に気遣いながら、助け合いながら歩く文化が根付けば、これからの超高齢化社会に暮らしやすい街として評価を高めることになるだろう。世界パラ陸上が大会として盛り上がるほど、そうした機運は醸成されやすくなるのではないか。これが見えないレガシーだ。
「さんきたアモーレ広場」完成予想図=神戸市提供
2020年代は人口減少がより顕著で、より急速に進行する時代になりそうだ。日本では有史以来で初めて、持続的な人口減少を経験する見通しだ。そこでの最大の疑問は、人口が増えないと豊かになれないのか、ということだ。WMGを通じた交流人口の獲得や、世界パラ陸上で象徴する社会的包摂の強化は、人口減少時代にあっても持続的に豊かになるための、挑戦の第一歩とも位置付けられる。もともと人口が多かったため減少する人口も多い神戸市は、そうした日本全体の課題に挑む実験場でもある。2020年はそのための助走の1年ともいえる。
(神戸経済ニュース編集長 山本学)
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