(解説)神戸港、「輸出」から「積み替え」へ変われるか 神戸国際港湾会議が導く未来

20170212神戸国際港湾会議ワッペン

 13〜14日の2日間に開催した神戸国際港湾会議(主催・神戸開港150年記念事業実行委員会、神戸市)では、海外25カ所、国内3カ所(神戸港含む)の港湾の管理者らが集まり、現在の課題や将来の役割について議論した。神戸開港150年の関連行事でありながらビジネス色が濃かったこともあり、業界紙以外の東阪のメディアにはほぼ無視された行事だったが、これだけ大規模の国際会議を自治体が単独で主催するのは、きわめて異例だ。背景には神戸港が将来も国際的に役割を担い続けるために、布石を打つ必要があったことが挙げられる。

■貨物はどこから来て、どこへ行くのか
 デザイン・クリエイティブセンター神戸(神戸市中央区)は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)デザイン都市に関連する施策の拠点として2012年に開業した神戸市の施設だが、愛称に建物の由来を残す。その愛称「KIITO」(キイト)は同センターが神戸生糸検査所として使われ、戦前の国内経済を支えた生糸の輸出に欠かせない施設だったことを示している。

 神戸港が最初に国際的な地位を示したのは、1923年9月1日に発生した関東大震災の直後のことだった。当時の主力の輸出製品であった生糸の輸出を止めるわけにはいかないと、それまで横浜港のほぼ独占状態だった生糸の輸出拠点が神戸に移ったのがきっかけだった。これ以来、いまでも神戸港は日本における輸出の拠点だ。1967年にコンテナ船が初入港して以来、およそ10年でコンテナ取扱個数が世界で2位にまで上り詰めたのは当時の日本が「世界の工場」で、日本から輸出する数々の工業製品が神戸港を通過したからだった。近年では燃料輸入のため日本全体でみて貿易赤字になることも増えているが、それでも神戸港は圧倒的に輸出超過だ。(写真はポートアイランドのコンテナターミナル)

20170219ポートアイランドのコンテナターミナル 

 いま世界の工場は中国に移り、日本から輸出する貨物は「昭和時代」に比べると格段に減少。結果として神戸港の国際的地位も低下した。それでも神戸港が世界で役割を担うには、世界の工場から米欧といった消費地への輸送拠点になることだ。神戸の開港150年を世界の同業者とともに祝うだけでなく、そうした将来に向けて神戸を世界にアピールするのが今回の国際港湾会議のねらいだった。

 世界の工場である中国や、その周辺で作った米国向けの製品を、各地の港から比較的小さなコンテナ船で韓国の釜山などに集め、米国行きの大きなコンテナ船に積み換え(トランシップ)をする。そして釜山からであれば津軽海峡を抜け、北米西海岸などに向かうのが長距離の大型コンテナ船(いわゆる基幹航路)の定番になっている。ただ世界の工場は中国から徐々に南下。フィリピンやインドネシアに世界の工場が移るようなら、シンガポールほど近くないにしても、釜山よりも東南アジアに近い神戸に「地の利」が出るだろうと神戸市は目論む。

■アジア11港と提携で覚書
 したがって今回の国際会議で神戸市にとって最大の成果は、国際会議をきっかけに相互連携の覚書(MOU)を各国・地域の11港(表)と調印できたことだ。覚書の文面は「パートナーシップ港として提携することで合意する」と強調した。神戸市が各地の港湾の関係者と事前に打ち合わせを重ねていたこともあり、会議の前日である12日には8港の代表団が来日してすぐに覚書の調印を終えた。スリランカのコロンボ港は後日調印することで神戸市と合意。さらに13日に中国の上海港、14日にフィリピン・マニラ港の代表者が神戸市との覚書に調印した。

20170219神戸国際港湾会議覚書一覧

 提携内容には原則として「貨物船、クルーズ船とも航路の積極展開」「海運に関する情報の相互共有」「相互訪問の積極化による人材育成」の3項目を盛り込んだ。神戸市の関係者は「今回の覚書は互いに義務を伴わない緩やかな内容にしており、まずは各港と互いのメリットを探りながら交流を深めていきたい」と説明する。物流に関しては貨物を奪い合うライバルであることから、多港間のネットワークを形成することが難しい面がある。2港間の互恵関係を深めることから将来の航路拡大と、その後の基幹航路の誘致につなげようとするのが現在の神戸港の戦略だ。

 とはいえ競争は激しい。すでにアジアの主要港である中国・香港は今回の国際会議に参加しなかった。シンガポールはクルーズ船の行事であるアジア・クルーズ・ターミナル協会(ACTA)の総会を併催したことから今回参加した面がある。クルーズ船は物流と異なり、1度の航海に多くの観光地を盛り込むために多港間ネットワークの形成が必要だからだ。神戸港は今後、トランシップ港湾として香港やシンガポールが意識しているような存在感を示すことができるだろうか。

■気になる政府の動き
 こうした港湾国際会議は国内でこそ珍しいが、海外ではむしろ積極的に開催する港湾が多いという。神戸市からも代表団が「年に何回も」といったペースで各地に渡航している。「国内港湾の貨物誘致に向けた動きは、海外に比べて1歩も2歩も遅れている」(港湾関係者)。日本が世界の工場だった時代に隆盛を誇った記憶があり、貨物を収集する努力を怠っていたツケが、現在の国内港湾の地位低下に表れているとの見方は多い。この反省が今回の港湾国際会議につながった面もあるようだ。

 2011年に政府は神戸港と大阪港をまとめた「阪神港」などを国際コンテナ戦略港湾に指定し、14年に管理会社の阪神国際港湾(神戸市中央区)を設立した。それまで政府は、港湾ごとの役割分担を整理せずに一律の規制で運営してきたが、港湾経営に関わる政策に重い腰を上げた形だ。その延長線上で、仮に国土交通省が今回の神戸国際港湾会議を応援していれば、香港の代表団も来日したかもしれないし、もっと多くの参加港と覚書を結ぶことができた可能性もあったろう。

 そんな中で国交省は神戸港湾国際会議の開催期間である13日、横浜港に基幹航路を誘致したと発表。中国の中遠海運集装箱運輸(COSCO)のコンテナ船がカナダ・バンクーバーから中国に向かう途中で横浜港に寄港するという。神戸港で海運に関する大規模な行事を開催している最中に、わざわざ政府が横浜港について発表するちぐはぐさは、神戸のためにも横浜のためにもならない。発表を前週や翌週に移動できなかったのか。

 神戸開港150年を広報するポスターには「コーヒーも映画もはじめは港からやってきた」というキャッチコピーが付いている。神戸港は西洋文化と日本の出会いの場だったことを表現した。もしもトランシップが神戸で盛んになれば、神戸に外国人の数はさらに増え、日本以外の国同士の文化が融合する場になるだろう。タイにはない食材を使ったタイ料理や、インドネシアの楽器を使ったインド音楽といった具合に、新たな衣食住や娯楽などを神戸から世界に発信することになるかもしれない。そんな未来は想像するだけでもわくわくするが、できれば政府は邪魔をしないで見守ってほしい。(神戸経済ニュース)

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