安藤忠雄氏「美しい神戸の宝石箱のような図書館に」 記者会見での主なやりとり
- 2019/09/15
- 00:18
建築家の安藤忠雄氏(写真)は13日、神戸市役所で開いた久元喜造市長との共同記者会見で、神戸市に寄贈を申し出た「こどものための図書館」の構想について語った。図書館の寄贈を提案した背景には、次世代をになう子供たちへの期待と同時に、現在の住まいでもある「美しい神戸」への誇りもあるという。そうした神戸で、子供たちがより自由に本と親しめる空間を作りたいと話した。記者会見での主なやりとりは以下の通り。
--構想をいつごろから持っていたのか。
「阪急六甲の山側に(安藤氏が設計した)『六甲の集合住宅』というのがあるんですが、あそこに私の家がありまして、それも含めて神戸に何かできないかということを考えておりました。このところ、ずっと考えていたのですが、(子供たちや若者が)本を読まないんですね。新聞を読まないんですね。これで大丈夫かというのが、字を正しく書けないんですよ。そこで本を読む場所をと思いました」
「公園を眺めながら、自分たちの神戸はこんなに美しくて、自分たちの神戸はこんなに我々をサポートしてくれるんだ、ということを体感できるような場所があったらいいなあと思っていて、いつごろ構想を持ったというわけではないんですけれども、何かやりたいというのは20年ぐらい前から思っていました」
--どれぐらいの規模の図書館になるのか。
「東遊園地のレンガの建物(東遊園地事務所)がありますよね。あの横にと思っています。だいたい300坪程度かなと」
「子供たちが育った後に残っている本をいただきたいというキャンペーンをすると、けっこう本を寄贈していただけるのではないかと思っています。また日本にはたくさんの出版社がありますね。そういうところからも、本はもらったほうがいいんじゃないかと思っています。さらに私の周りには作家で、子供向けの本を書いている人が意外にいっぱいいるんですね。こういう人たちは提供してくれるというので、神戸市の図書館には全員参加だと」
「神戸ならではの、作りっぱなしでない、美しい神戸になるための、図書館になればいいかなと。美しい神戸の、考える子供たちが、ここから育って行くことを願っております」
ーーどのぐらいの蔵書数になりそうか。
「蔵書の量よりも質なのではないかと」
「東京・上野の国立子ども図書館(国立国会図書館国際子ども図書館=東京都台東区)はかなり大きなものですが、蔵書が考えられんぐらい多いんですね。それを見て、多すぎるのもどうかなと。小さいけれども宝石のような図書館にならへんのかなと。宝石は本ですから。我々が作るのは宝石箱ですから。やはり箱よりも本ですよね」
ーー想定している子供の対象年齢は。
「幼稚園の上ぐらいから、まあ大学生ぐらいでしょうね。でも高齢者がいっぱい来ると思うんですよ。おじさんばっかりおる図書館やなあ、という風にならんように、どうすればいいんかなというのを心配しております」
「神戸は快適ですから、みな100歳まで元気なんですよ。100歳まで好奇心あふれるために若い時に、徹底的に本を読むというのは大事なのではないかと。私いま寝る前に、1時間ぐらい本を読むんですよ。建築の本ではないんですけど」
ーー設計も建築も安藤氏が手がけるのか。
「私は日本の建築の1番の特徴は縁側だと思うんです。だから広々とした縁側が6メートルぐらいあって、縁側で読めると。普通は家の中で読むものですが、ひさしを深くすると縁側で読めますので。縁側の木陰の中で本を読むというのがいいのではないかと思っていまして、ああやっぱり神戸やなという感じがする。同時にクスノキがありますので、木陰で縁側の下で読むというのが日本の建築の特徴なんではないかと思ってます」
「いま設計は打ち合わせをしておりまして、だいたいアウトラインは決まってきております。われわれは設計費と建築費を寄贈したいと思っています。建設後の運営にもスポンサーとして参加したいと。神戸市の方々と図書館の名前を考えております。そこに私の名前は絶対にいりません、とお願いをしております」
ーー図書館がはたしてほしい役割は。
「これだけの立派な公園が街中にあるところは、あまりないんですね。それに海のにおいもする、山のにおいもする。誇りのある神戸に育ったんだ、ということをだんだんと自分の体に一体化すると、東京に行った人が(久元神戸)市長みたいに帰って来るかもわからへん。いま都市間競争といいますが、残念ながら経済競争をしたら、それは東京ですよ。そうではなく、魅力のある、誇りのある街になるための、少しの力になればいいなと」
ーー震災から25年になるが、震災と図書館にかける思いは。
「震災復興の時にグリーンネットワークというのを考えました。それはモクレン、コブシ、ハナミズキが神戸の街に咲いているのがいいなあと思って、(ひょうご住宅復興3カ年計画で建設された)12万5000戸に対して25万本を植えようと思いまして、30万本を植えたんですけど、全部育てるのはやっっぱり難しいですね。でも6割ぐらいはわれわれがチェックしている分に付いては咲いています」
(東遊園地=資料)
「兵庫県立美術館の隣に、神戸市の広場があるでしょ。あれは政令指定都市の公園として、あちこちの政令指定都市から30本ずつ神戸市の木であるクスノキをもらって植えました。神戸市の努力で土を入れ替えたりして、いま立派な公園になっております。そういう風にものは育てないかんということを、街を通して、本を通して、人を通して伝えられればと思います」
--震災を引き継ぐ工夫はするのか。
「震災を記憶するようなものはたくさんあります。それはきっちり選んで、コーナーを作らないといけないだろうと。同時に(慰霊と復興のモニュメントが)隣にありますから、亡くなった人たちの無念を思って、ちょっと立ち寄ってみると。そして神戸の(震災の)ことをしっかりと思い出す工夫になればいいなと思います」
ーー大阪の図書館(2020年に開館する大阪市北区の「こども本の森 中之島」)と同様に運営費は市民からか。
「運営については、どうするかというのは神戸市の話を聞いて、参加できるところは参加したいと思っています」
「ちょうど私、外国で仕事をしていますからフランス、スイス、ドイツ、イタリア、アメリカでずっとやってますので、その辺りのクライアントに話をしましたら、全然問題ない。すぐに集めるよ、という人たちがたくさんいます。いろいろな国のもんがあった方がいいと思うんです。読めなかってもね。こちらにも新宮晋っていう彫刻の作家がいますよね。彼も絵本を作っています。猫の写真ばっかり撮っている岩合(光昭)というのも私、友達なもんですから本はもらえそうです」
--読書は好きというが、どんな本に影響を受けたか。
「図書館について(影響を受けたという点で)は、カーネギーホールを建てた(アンドリュー・)カーネギーというのがいます。彼は63歳ぐらいで会社を手放し、たくさんのお金をゲットしたんだと思うんですが、それでアメリカ中に図書館を作っています。また交流があった作家マーク・トウェインの本『ハックルベリー・フィンの冒険』などを深くサポートしています」
「大江健三郎さんの本を読んでいると、母親にマーク・トウェインの本を読み聞かせてもらったけれども、賢い人ですから、小学校の高学年ぐらいにはマーク・トウェインを原書で読んだ方がいいと思ったそうです。またマーク・トウェインが自分に大きな影響を与えているとも書いています。そういうことを考えると、彼にとっては、それが大きな力になっているんだなとも思います」
「カーネギーは『自分が生涯獲得したお金を社会に返せなかったことが残念だ』と言って亡くなったそうですので、そうならないようにしたいと思っております」
--大人の図書館、普通の図書館との違いは何か。
「まずは子供の図書館ですから、子供中心の、子供が想像力をかきたてられる本を中心に集めてくる、ということでしょう。そのうえで、図書館には大きな階段があったりしますので、どこで座って読んでもいいと。縁側で読んでもいいし、行儀が悪いか分かりませんが、寝転がって読んでもいいではないかと。木の下で読んでもいいのではないかと、こういう図書館はいまないんですね」
「普通は本を扱える場所がガチッと決まっていて、ここからは出たらいかんと。自分たちが借りた本は傷めてはいけないという礼儀を持つところから、始めなければならないだろうと思いますが、そのうえで、どこで読んでもいいよと。近ごろ少し、子供が本を読んだ方が良いのではないかという話が出ております。その中の見本になるような図書館になればと思います」
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