(解説)コンピューター「京」が親しまれた理由3つ 神戸医療産業都市のモデルか



 8月30日に電源を切る式典をわざわざ開催した理化学研究所のスーパーコンピューター「京」は、1台のコンピューターと思えないほど、地元に親しまれていた。その背景には、民主党政権の事業仕分けで有名になったのをきっかけに、地元に親しまれるための努力をしたということが大きい。こうした「京」の人気は、シミュレーションクラスター(シミュレーション集団)として自らの一部に取り込んだ、神戸医療産業都市の関心や知名度を高めるうえで1つのモデルになりそうだ。

 普通に考えれば分かることだが、スーパーコンピューターの電源を切るのは、いきなり通電を断つスイッチの操作でできるわけがない。しかもコンピューター「京」のシャットダウン式典で採用されたような4分の1ずつ電源を切っていくなど、その意味もよく分からない。本来であれば京を動かすOS(基本ソフト)が採用しているコンピューター言語で、シャットダウンのコマンド(命令)を打ち込むのが安全な電源切断になるはずだ。しかし「京」の電源を切る理研のパフォーマンスはニコニコ動画で同時配信され、翌朝の地元紙「神戸新聞」は1面トップ横見出しが「さらばスパコン『京』」。芸能人の結婚式もかくやと思わせる人気ぶりだ。

 こうした知名度を獲得できた背景には、やはり幅広い関係者がさまざまな工夫したことが挙げられる。まずは神戸市がポートライナーの駅名に「京コンピュータ前」を採用したのは大きかった。同駅を利用する人は京コンピューターに用事がある人よりも、トーカロなど近隣の企業に通う人や、神戸どうぶつ王国を訪れる人の方がよほど多いとみられる。にもかかわらず「京」を駅名に採用することで、認知度を高めたうえ、ある種の象徴性を持たせた可能性が高い。

 加えて「京」自体も、きわめて多くの見学者を受け入れた。理研によると2011年に見学を開始してから今年8月9日の見学終了までに、のべ9万949人の見学者を受け入れた。単純に9で割っても年間1万人以上が見学に訪れるとは、ちょっとした観光地だ。厳重なセキュリティーの維持が必要で、本来は誰でも簡単に見学できるわけではない施設であるにもかかわらず、この人数を受け入れたのは、親しまれるための努力にほかならない。

20190901京コンピューター前

 さらに地元企業が「京」を活用したことを積極的にアピールしたのも効いた。神戸市中央区に本社を置く住友ゴム工業の山本悟社長に神戸の研究開発環境を聞くと、「コンピューター『京』にも、(佐用町にある大型放射光施設の)『スプリング8』にも近く、地の利が生かせる」という答えが返ってきた。実際に幅広い「ユーザー」が活用したことで「進んだ会社は研究開発に(京が得意とする)シミュレーションを取り入れている」という好印象が広がり、これも追い風になったとみられる。

 知名度を上げることには意義がある。知名度の向上が優秀な人材を呼び寄せれば実際の成果につながるだろうし、その成果が再び優秀な人材を多く獲得するきっかけになるという好循環ができる。事業仕分けを自作自演するわけにはいかないが、こうした「京」の知名度が高まった経路を振り返ると、医療産業に直接関係しない人の関心を集めるには、意外に地味で継続的な取り組みを、それなりに手広く続ける態勢が必要ということが改めて分かる。

 たとえば「京」が撤去されることを考えると、ポートライナーの駅名を京コンピュータ前から、神戸医療産業都市」に変更することもあり得るだろう。もしかしたら神戸アイセンター(神戸市中央区)の玄関にある交流スペース「ビジョンパーク」には、観光客を誘致してもよいかもしれない。神戸医療産業都市の秋の一般公開日でも閑散としている神戸キメックセンタービル(神戸市中央区)10階の展望ロビーは、飛行機を見るポイントなどとして、もっと活用できるのではないか。その気になれば、少ない予算でも工夫の余地はいろいろありそうだ。
(神戸経済ニュース 山本学)

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