(解説)神戸港は再び輝くのか 開港150年の年頭に

20150430神戸開港150年記念ロゴ

 読者のみなさま、明けましておめでとうございます。どうぞ本年も「神戸経済ニュース」をよろしくお願いいたします。

 神戸港の開港は明治時代が始まった1868年の1月1日ですから、2017年1月から150年目に入ります。神戸開港150年を祝う1年にするということで、神戸市が記念行事を予定するのに加え、およそ30年後を見据えた「神戸港の将来像」を策定する計画です。かつて神戸港は世界の主要港でしたが、コンテナ取扱個数の世界ランキングを見れば地位の低下は鮮明です。しかし豊かな暮らしと貿易は切り離せません。わたしたちは今後、神戸港をどう活用すれば良いのでしょうか。考えるヒントを改めて探ってみたいと思います。

■日本で一番短い国道
 「日本には貨物がない」。ある海運大手の幹部が話していた。国内海運最大手の日本郵船がコンテナを中心とした定期船の本社機能をシンガポールに移したのは2010年。すでに、そのとき世界の海運の中心は中国・アジアに移っていた。日本が世界の工場だった昭和時代までは、日本と世界を結ぶのが世界の海運業の仕事だった。世界の工場が中国や東南アジアに移ったからには、中国や東南アジアに原料を運び、中国や東南アジアから世界各国に製品を運ぶのが、いまの海運業の役割だ。

20170101世界の港湾別コンテナ取扱個数ランキング今昔

 1980年と2015年を比較してみよう(表)。2015年のコンテナ取扱個数上位の港は、ほとんど東南アジアの港だ。神戸港だけでなく、先進国の主要港湾は軒並み順位を落としている。1980年に首位だったニューヨーク港は、ニュージャージー港との合計で22位に後退した。上位に踏みとどまっている欧州の港も、ロッテルダム港が2位から11位、ベルギーのアントワープ港も12位から14位へと順位を下げた。

 日本のコンテナ首位である商船三井が現在運航する最も大きなコンテナ船は、20フィートコンテナ換算で1万4000個まで積載することができる。日本の海運会社がアジア〜欧州航路に投入している船だが、通常のスケジュールでは日本には寄港しない。国内の海運会社ですら日本以外の航路が収益の柱になっている。それぐらい、日本には「貨物がない」というわけだ。

 ただ、貨物の量が昔に比べて減ったわけではない。経済のグローバル化で世界の貿易全体が増加した結果、先進国の港の地位が相対的に下がったのが実態だ。神戸港では2016年1〜6月のコンテナ取扱個数が、137万個(20フィートコンテナ換算)で、ようやく阪神淡路大震災前の1994年と同水準に戻ったというが、世界4位だった1980年との比較では8割強増えた計算だ。首位から22位に転落したニューヨークは3.3倍、ロッテルダムは順位を下げながら6.4倍にも増えた。貨物の量は文字通りケタ違いに増えている。

 経済はグローバル化し、国際的な役割分担に参加できる国や地域が増えている。従って今後も神戸港での貨物取扱数量や取扱額は、仮にランキングが下がったとしても増え続ける可能性は高い。もとより日本が周囲をすべて海に取り囲まれた島国であることを考えると、港は豊かさの生命線。いくら国際的な地位が下がったとしても貿易は必要な機能であり続ける。だから港湾の整備は今後も必須であり、期待され続けるだろう。

20170101日本一短い国道の標識

 神戸市中央区の神戸税関前から国道2号線を結ぶ国道174号線は、日本一短い国道として知られる(上の写真)。この道路が現在のように国道として定められたのは1953年。神戸港から国道2号線を結ぶ道路という位置付けだ。東京から神戸港を結ぶ道路を1885年に国道3号線と位置付けたなごりとはいえ、主要国道と主要港湾を結ぶ道路は日本全体の利益に寄与するから国が管理するという意味合いは、実は現代にも生きている。神戸港が確実に機能することは、日本全体への貢献であることには違いない。

■「快適で安価な港」への模索
 国内最大の輸出入を取り扱う港湾は東京港で、コンテナに限れば神戸港は国内3位の主要港だ。しかし、神戸税関が作成した「全国開港別貿易額表」(2015年)によると、国内で貿易額が最も大きい「港」は成田国際空港だった。年間の輸出入合計(通関ベース)はざっと21兆円。神戸港は8兆8170億円で関西国際空港に次ぐ国内6位だ。航空貨物には半導体など単価が高い製品が多いのに対し、船舶での輸入は素材、輸出は雑貨など安い製品が相対的に多いからだ。

 付加価値が高く、「時間を買う」ために高い運賃などのコストを許容する貨物が航空機にシフトしているというのは見逃せない。いくら神戸港での荷役作業がていねいだと言っても、港湾関係者の間でコスト競争力への関心が高いのはこのためだ。大量輸送という面だけでなく、安い運賃を求めて海運を選択するケースは少なくない。人手不足で港湾労働者の人件費は上昇基調であれば、より効率的な港湾運営への意識は高まる。

 そうした流れにあって長期的な港湾経営のビジョンを考えるならば、やはり荷役の完全自動化、無人化を念頭に置く必要があるのではないか。現在の技術では困難でも、規格化されたコンテナの積み下ろしや積み替えなどは本来的に、ロボットによる作業に向いているはずだ。トラックの自動運転も実用化が視野に入ってきた。近代港湾の歴史が省力化の歴史であったとするならば、労働者が世界一快適な港が、世界一コストの安い港になるはずだ。(下の写真は夕日を背にした六甲アイランドのコンテナターミナル=手前右=とポートアイランドのコンテナターミナル=奥、2016年12月31日撮影)
20170101神戸港のコンテナターミナル

 加えて神戸港の港域内には神戸空港もあり、関西国際空港も近い。阪神高速道路は主要コンテナターミナルのある六甲アイランドまで既に伸びており、名神高速道路や中国自動車道などで西日本のほぼ全域と神戸港を速やか結べる可能性を、いかに引き出すかは一段と重要な課題になりそうだ。陸海空をスムーズに乗り換えられる物流拠点として、総合物流会社などと対話しながら港湾機能を設計することも考えて良いだろう。

 インターネットの普及で遠くのできごとを自宅で知ることが珍しくなくなった現代では、コーヒー、映画、ジャズ、スポーツのように、港があるというだけで神戸が日本発祥の地として目立つケースは少ないかもしれない。ただ、神戸港は人々の生活を支えるインフラとして、実はいまも真珠のように静かに輝き続けているのが、目を凝らせば見えてくる。さらに磨きをかけるのに必要なのは、神戸市や神戸港の目先の経営よりも「日本や世界の人々の暮らしに、どう貢献するか」という視点を忘れないことではないか。(神戸経済ニュース)

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