(解説)新開地の「喜楽館」に経済効果出るか デフレの街に転機?
- 2018/07/13
- 10:25
「またこの辺で飲むんやろな……」。神戸市長田区の出身で、11日にオープンした神戸市兵庫区の演芸場「喜楽館」担当を上方落語協会で務める桂文之助さん(上の写真中央)が、同館を報道公開した8日に話していた。1976年まで神戸市兵庫区の新開地にあった演芸場「神戸松竹座」を記念した案内板の前で、除幕式を待っていたときのことだ。飲食店の看板を見ながら「めちゃくちゃ安いですね」と声をかけると、文之助さんは「お土地柄やね」と応じてくださった。
喜楽館の経済効果が期待されている。第2次大戦前は「東の浅草、西の新開地」と言われるほどの繁華街だったが、神戸市役所が三宮に移転したことに加え、娯楽の中心が映画や演劇からテレビに移ったことなどもあって、次第に往時のにぎわいが影をひそめるようになった。「ええとこええとこ」と言われた聚楽館(しゅうらくかん)も無くなると、さびれた印象が強まった。新開地の演芸場も神戸松竹座が閉館して以来、歴史が途絶えていた。
そんな中での喜楽館オープンだから、地元の期待は自ずと膨らむ。経済産業省近畿経済産業局の志賀英晃産業部長(下の写真)は、11日の喜楽館の開館記念式典であいさつし、こんなデータを紹介していた。喜楽館に先んじて2006年にオープンした「天満天神繁昌亭」(はんじょうてい、大阪市北区)の例だ。繁昌亭のオープン以来、隣接する天神橋筋商店街を訪れる人の数が平日で7%、週末には40%増加したという。商店主の92%は繁昌亭が商店街に活性化につながったとの実感を持ち、半数の店舗で売上高が伸びたという。
さらに志賀氏は続ける。「(大衆演劇の)新開地劇場や(ジャズボーカルのコンテスト会場にもなる)神戸アートビレッジセンターが近くにある喜楽館は、繁昌亭よりもポテンシャルが高い」という。現在は閉じられたシャッターも目立つ新開地の商店街だが、来場者が増えれば近隣の飲食店での需要も増えるに違いない。飲食店が充実すれば街に滞在する時間も長くなり、他の店舗への波及効果も出るかもしれない。喜楽館の初代館長で新開地まちづくりNPOの高四代さんは「たくさんのお客さんが来ていただいて、重いシャッターも軽くなるように」と力を込めていた。
ところで文之助師いわく「お土地柄」という飲食店の価格は、たとえば「ミックスフライ定食500円」「たこ焼き6個250円」といった具合だ。定食のおかずだけを400円で購入し、300円のサワー2杯で〆て1000円。新開地は1000円で十分に酔える(べろべろになれる)「せんべろの町」であり、言い換えるとデフレの最先端を走る街だ。ということは、この街に活気が戻れば、人手不足の影響を大きく受ける可能性が高い。飲食店の価格は意外にも、喜楽館の来場者数に対して敏感に反応するかもしれない。(神戸経済ニュース 山本学)
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