(解説)23年のIPO 96銘柄上場「公開価格は安すぎたのか」・宇田川氏に聞く

20231228宇田川克己氏

【神戸経済ニュース】2023年の株式市場では、神戸市に本社を置く企業の新規株式公開(IPO)はなかったが、27日に年内最後のyutori(5892)が東証グロース市場に新規上場して、今年のIPOは96社になった。IPOを巡る株式市場の動きについてIPOアナリストの第一人者である、いちよし証券の宇田川克己・銘柄情報課長(写真)に聞くと「市場の試行錯誤が価格形成にも表れた1年だった」と振り返る。円滑な資金調達をめざして価格決定のプロセスを工夫する動きが広がっているが、リスクを引き受ける個人投資家の存在にも、もっと注目すべきだと宇田川氏はみている。(聞き手は神戸経済ニュース編集長・山本学)

◼️「3つの変調」は何を語る
 「今年の96銘柄について集計すると『3つの数値』が変調したといえるほど、ここ数年とは異なる水準になった。1つは12月の集中度が低かったこと。2018〜22年でみると、年間のIPO銘柄のうち約4分の1(25.5%)が12月に新規上場してきたが、今年は15.6%にとどまったことがある」

 「次に日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)が33年ぶりの高値水準というほど上昇する中で、初値が公開(公募・売り出し)価格を下回った銘柄が多かったこと。初値が公開価格を上回った銘柄数の割合『勝率』は69.8%で、これは東日本大震災があった2011年(52.8%)以来の低水準になった。これまでは5銘柄に1銘柄ぐらいは負けるという感じだったが、その感覚は通用しなかった」

20231228データIPO

 「公開価格が、目論見書に掲載した想定発行価格を下回って決まった銘柄が多かったのも今年の特徴だ。2018〜22年の5年間に新規上場した銘柄で見ると、想定発行価格よりも公開価格が安くなったのは全体の10.2%だった。特に21年は5.7%と少なかったが、23年は17.7%に跳ね上がった」

◼️IPO巡る試行錯誤
 「こうした『変調』の背景には、より魅力的な市場を作ろうとする市場関係者や当局の試行錯誤がある。従来は年内にIPO、年度内にIPOといった各社の目標が12月や3月にIPOを集中させていた面があった。年末や年度末にこだわらず、IPOを分散させる動きが広がっているのであれば、銘柄選びにじっくり時間をかけられるなど投資家にとっても好都合だ」

 「株式相場全体は堅調なのにIPOで『負け』が多いのは、総じて公開価格が高めに設定されるようになってきたためといえる。10月からは仮条件の範囲外に公開価格を設定できるルールも運用が始まった。かねてIPOの公開価格は安すぎで、証券会社が勝手にもうけているといった批判というか、そういう指摘があった。そこで比較的、新規上場の会社側に寄った公開価格の値付けをしたことが想定される。その結果、上場直後から売りが膨らむ銘柄が増えた」

 「公開価格が想定発行価格よりも低く決まるケースが増えたのも背景は同じで、株式を公開する会社が強気の自己評価をしたものの、それが市場に受け入れられたなかったということだ。理論株価と市場で成立する価格は必ずしも一致しない、というのを改めて印象付けられたと言ってよさそうだ」

◼️公開価格は本当に安すぎたのか
 「すべてのIPO銘柄は市場での売買実績がない銘柄だ。同じぐらいの事業規模、成長性、利益水準でも、既上場の銘柄と比べてIPO銘柄を割安に評価しなくてはならないだろう。IPOから5年以内にM&A(合併・買収)やMBO(経営陣による企業買収)で上場廃止になったり、業種業態がまったく異なる会社になってしまうケースも少なくない。IPO銘柄への投資は、そうしたリスクを引き受けるということでもあるはずだ。目論見書に掲載した想定価格通りに値付けできなかったり、初値が公開価格を下回ったりしたのは、そうしたIPO銘柄に投資することのリスクを株式の発行体(新規上場する会社)が甘くみたためではないか」

 「公開価格を引き上げて投資家のリスクプレミアムを削った結果、わずかなリスクプレミアムを確保するために投資家の短期志向が強まり、上場直後から売りが膨らみやすくなったというわけだ。こういう場合、米国のようにリスク許容度の大きい『適格投資家』だけがIPO銘柄を買えるようにすべきという議論が浮上しやすいが、解決策としてほとんど機能しないだろう。日本の場合、IPO直後に投信や年金などの機関投資家が保有できるほど、流動性が維持できる銘柄はほとんどない。仮に適格投資家の制度を導入すると、新規上場する銘柄をかなり絞り込むことにならざるを得ず、日本の株式市場から銘柄や業種の多様性が失われかねない」

 「特に制約なく、個人の好みで銘柄を選んだり、相場のムードに乗って売買したりもできる個人投資家の存在によって、かなり小型のIPOでも円滑に上場できるのが日本の株式市場だ。それを思うと従来の公開価格は本当に安すぎたのか。足元では人工知能(AI)関連や、宇宙開発関連といった銘柄の上場で、新たな多様性への期待も出てきた。将来キャッシュフローの割り引き現在価値で理論株価は計算できるというが、それでも時々刻々と株価が変わる株式市場の存在意義に、もう一度、立ち返った議論が必要であるように思う」

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