(解説)実は明石市よりもスゴかった? 神戸市の子育て支援が目立たない理由

2023/09/05  16:55  【訂正】第7段落に「1カ月の上限が400円」とあったのは、「1日の上限400円を月2回までで、3回目以降無料」の誤りでした。

【神戸経済ニュース】神戸市が8月30日に開いた「大学生と久元市長の対話フォーラム」では、冒頭から大学生らが神戸市の久元喜造市長に詰め寄った。「神戸市は明石市に子育て支援で負けている」「明石市に人口が流れているのは、神戸市の子育て支援が貧弱だからだ」というのが大学生らの一致した主張だった。「いきなり来ましたね」と言いながら、受けて立つ久元市長は余裕の表情だった。

 「明石市と神戸市を比較すると、ほとんどの人が明石市のほうが子育て支援が充実していると思っているんですよ」と久元市長は続けた。「実際どうなのか比べてみたのが、この表です」といいながらスクリーンに投影したのが、5枚にわたる次の表(神戸市提供)だ。

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 中には明石市のほうが条件のよい項目もあるが、神戸市にあって明石市にない事業は意外に多い。「神戸市は昨年から待機児童はゼロだが、明石市は全国的にみてワースト5に入っている」と久元氏は指摘。施設の数については人口や面積から考えて単純に比較するのは難しいが、「児童館は明石市にはなく、神戸市は120カ所」「子供の居場所作りは人口から見たらそんなに変わらず、学習支援の場所は神戸の方が充実している」と久元氏は説明する。

 明石市の医療費は完全に無料だが、神戸市は1日の上限400円を月2回までで、3回目以降無料。入院の場合は神戸市も明石市も無料。よく知られているのは、少額の医療費を徴収することで、本来必要はないのに受診する人が大きく減るということだ。これも人口の違いが反映されそうだが、神戸市は本当に必要なときに、待たずに済むことを狙った仕組みになっているといえる。久元氏は「全体的に見たら、神戸市の方が子育て支援は進んでいると思う」と結論づけた。

 説明を聞いて、ある女子学生が「もっと周知をすべきでは」と話すと、久元氏は「広報戦略の問題だ」と応えた。「質問が出たから、こういう表を作ったが、本当はこんなことを言いたくない」。その理由は「長い目で見たら、神戸と明石は協力をする必要がある」からだ。人口減少社会では「隣り合う市が人口を奪い合うのではなく、足らないところ補い合う方がいいのではないか」。明石市については、子育て支援に注力したのを強調するのが、「広報戦略として有効だと思っている」と受け止めているという。

 神戸市は人口が約153万人と多く、政令市で県庁所在地でもあり、特別会計や企業会計なども含めた全会計ベースで見ると財政規模は、人口29万人である明石市の10倍近くにもなる。文字通りケタ違いだ。子育て支援に使える予算も、その分多い。人口が多ければ効率よく施策展開できるという面もある。加えて神戸市には神戸市以外が展開する施設も充実しやすい。たとえば兵庫県立こども病院は、開設から一貫して神戸市内にある。神戸市のほうが子育ての環境が充実するのは、いわば当たり前。そこで明石市を言い負かすのは、いかにも大人気(おとなげ)ないというのが久元氏の判断というわけだ。

 神戸には神戸にしかできないことがある。たとえば周辺道路も含めた神戸港の整備や円滑な運営は、日本全体を豊かにできるかに関わる問題だ。住民サービスを全国的にみて高い水準に維持しながら、さらに大都市として国内外に貢献することが中長期的に神戸市の魅力を高めるというのが、久元氏が組み立てた神戸市のビジョンだ。最初の結果が出るのは2030年ごろ、三宮再開発がひと段落するころだろう。それまでに神戸市が何を発信するかは、その最初の結果にも影響するだけに、引き続き目をこらして見ていきたい。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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