(解説)神戸ビーフ館、行政の事業としては問題が多い ブランド価値の毀損も
- 2018/01/04
- 22:50
兵庫県が県政150周年記念事業として計画している「神戸ビーフ館」は、兵庫県という自治組織であり行政機関が手がける事業としては問題が多く、やめるべきである。民業圧迫になるばかりか、明治時代以来、築かれてきた神戸ビーフのブランド価値を毀損することにもつながりかねない。兵庫県が取り組むべき課題は神戸ビーフを自ら販売することでなく、肥育農家の後継者問題など神戸ビーフの生産量を維持したり増やしたりすることだろう。
■JA直営店が神戸ビーフに偽装
兵庫県が昨年12月25日に発表した県政150周年記念事業の計画で、検討中のハード事業として掲げた事業の1つが「神戸ビーフ館(仮称)整備事業」だ。神戸市内で但馬牛・神戸ビーフの展示、料理の販売に乗り出すという。だが、希少な神戸ビーフを精肉店や飲食店がうばい合っているのが現状だ。新たに兵庫県が神戸ビーフの販売に参入するとなると、需給は一段と引き締まる。仕入れ価格を高騰させ、神戸ビーフを販売する店舗の経営を圧迫するのが神戸ビーフ館の目的というわけでもないだろう。
JA全農兵庫の直営レストラン「プレジール神戸」(神戸市中央区、写真)では、今年10月までの約6年間にもわたって但馬牛フィレ肉を「神戸牛フィレ肉」と偽って提供していたことが昨年判明。現在は営業を停止している。背景にはJA全農兵庫の直営店にもかかわらず、プレジール神戸が神戸ビーフを仕入れられなかったことがある。「神戸ビーフをどこで食べて良いか分からない」という声が上がっているのが本当だとしても、それは「神戸ビーフがない」というのが原因である可能性が高い。この状況を解決するのが兵庫県の行政としての課題ではないか。
さらに兵庫県の公営レストランになる「神戸ビーフ館」は、神戸ビーフの料理をいくらで販売するのだろうか。非営利事業であるなら市場価格よりも安く提供することになる。そうなると割安感のある「神戸ビーフ館」が、民間の神戸ビーフ料理店の経営を直接的に阻害する。半面、市場価格よりも高く提供するのは不必要な利益をむさぼることになり、消費者に対する裏切りだ。しかし適正な市場価格の調査はそもそも非現実的だ。値付けを含む店舗の経営は、そもそも経営者の手腕であり、民間人がリスクを取って取り組むことこそ合理的。小売価格を下手に釣り上げたり押し下げたりするのは、「神戸ビーフ」というブランドによって本来、事業者や消費者が得られるはずの価値をすりへらす。
■施設整備ありき?
しかも、ハード事業で神戸ビーフ館を「整備」するという。新たに施設の建設ありきで計画が進行しているとみられ、はたしてどれほど神戸ビーフの振興につながるのか不透明だ。訪日客を誘導するのが目的とも指摘されているが、神戸市内には有名なステーキ店も多い。なぜ、民営の既存レストランに誘導できないのか。新たな施設を建設するなら、兵庫県はその理由を示す必要もあるだろう。
兵庫県は神戸ビーフ館と同様に県政150周年記念事業の一環で「ひょうごスイーツ博物館構想事業(仮称)の検討」も掲げる。これは既に神戸市が昨年4月に開設した「SWEETS BASE リトル神戸」(神戸市東灘区)と重複する可能性が高い。県と市が同様の事業を別々に手がける二重行政になりそう。しかも神戸のスイーツは全国的な知名度を既に獲得している店舗も多い。わざわざ税金を使って民間事業の劣化コピーを作るようなら、既存の民間事業者にとっても納税者にとっても迷惑というほかない。
とはいえ、これらのプロジェクトに対する異論もやはり、兵庫県庁内部や兵庫県議会の多数派にはならないだろう。それがまさに知事選で5選をはたした井戸敏三県政での「多選の弊害」だ。初代県庁の復元事業と同様に、ここでも予算膨張の兆しが見て取れる。一般会計の収支均衡を2018年度と目前に控えて井戸氏が自信を深めているのは分からなくもないが、行政は自らの役割をわきまえてほしい。(神戸経済ニュース)
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JA全農兵庫の直営レストラン「プレジール神戸」(神戸市中央区、写真)では、今年10月までの約6年間にもわたって但馬牛フィレ肉を「神戸牛フィレ肉」と偽って提供していたことが昨年判明。現在は営業を停止している。背景にはJA全農兵庫の直営店にもかかわらず、プレジール神戸が神戸ビーフを仕入れられなかったことがある。「神戸ビーフをどこで食べて良いか分からない」という声が上がっているのが本当だとしても、それは「神戸ビーフがない」というのが原因である可能性が高い。この状況を解決するのが兵庫県の行政としての課題ではないか。
さらに兵庫県の公営レストランになる「神戸ビーフ館」は、神戸ビーフの料理をいくらで販売するのだろうか。非営利事業であるなら市場価格よりも安く提供することになる。そうなると割安感のある「神戸ビーフ館」が、民間の神戸ビーフ料理店の経営を直接的に阻害する。半面、市場価格よりも高く提供するのは不必要な利益をむさぼることになり、消費者に対する裏切りだ。しかし適正な市場価格の調査はそもそも非現実的だ。値付けを含む店舗の経営は、そもそも経営者の手腕であり、民間人がリスクを取って取り組むことこそ合理的。小売価格を下手に釣り上げたり押し下げたりするのは、「神戸ビーフ」というブランドによって本来、事業者や消費者が得られるはずの価値をすりへらす。
■施設整備ありき?
しかも、ハード事業で神戸ビーフ館を「整備」するという。新たに施設の建設ありきで計画が進行しているとみられ、はたしてどれほど神戸ビーフの振興につながるのか不透明だ。訪日客を誘導するのが目的とも指摘されているが、神戸市内には有名なステーキ店も多い。なぜ、民営の既存レストランに誘導できないのか。新たな施設を建設するなら、兵庫県はその理由を示す必要もあるだろう。
兵庫県は神戸ビーフ館と同様に県政150周年記念事業の一環で「ひょうごスイーツ博物館構想事業(仮称)の検討」も掲げる。これは既に神戸市が昨年4月に開設した「SWEETS BASE リトル神戸」(神戸市東灘区)と重複する可能性が高い。県と市が同様の事業を別々に手がける二重行政になりそう。しかも神戸のスイーツは全国的な知名度を既に獲得している店舗も多い。わざわざ税金を使って民間事業の劣化コピーを作るようなら、既存の民間事業者にとっても納税者にとっても迷惑というほかない。
とはいえ、これらのプロジェクトに対する異論もやはり、兵庫県庁内部や兵庫県議会の多数派にはならないだろう。それがまさに知事選で5選をはたした井戸敏三県政での「多選の弊害」だ。初代県庁の復元事業と同様に、ここでも予算膨張の兆しが見て取れる。一般会計の収支均衡を2018年度と目前に控えて井戸氏が自信を深めているのは分からなくもないが、行政は自らの役割をわきまえてほしい。(神戸経済ニュース)
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