久元神戸市長に観光を聞く(1)神戸らしいライフスタイル、神戸を訪れる人にも

【神戸経済ニュース】神戸市の久元喜造市長に「観光」について聞いた。新型コロナウイルスの影響で停滞した経済が正常化する中で、観光の再開にも関心が集まっている。今夏は国内旅行に関心が向かい、過去3年間に外出ができなかった分、より多くの人が旅行に出かける見通しだ。加えて海外から日本を訪れる観光客も、客足が戻りつつある。そうした中で久元市長は、神戸の住民と、神戸を訪れる人が、共通した楽しめることこそ観光につながるとの見方を示す。久元市長とのやりとりは以下の通り。
(聞き手は神戸経済ニュース編集長 山本学)

 ――神戸市として「観光」についての基本的な姿勢とは。

 「日本全体の人口減少で、ほとんどの都市も地域も人口が減少している。だから外国をふくめて他の地域から、いかに多くの人に来ていただいて、楽しんでいただいて、消費をしていただくかというのは、どこの地域にとっても非常に大事になっている」

 「神戸にはいろいろな産業があるので、観光が神戸経済に占める位置は、他の都市や地域に比べてそれほど高いわけではない。ただ、雇用者数をみると、観光産業で働く人は市内従業者数の13.6%と相当な数になる。加えて観光は波及効果が大きい。飲食業、交通、スポーツ、芸術文化など、さまざまな分野に波及効果があるため、やはり観光産業を振興していくということは、非常に重要なことだと考えている」

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インタビューに答える久元神戸市長

 ――神戸は京都や大阪に観光誘致、特に訪日客の誘致(インバウンド)で負けているとの声がある。

 「近隣の観光都市をみると、たとえば京都は、やはり『千年の都』だ。文化遺産の集積はものすごいものがある。私は京都府で3年間勤務したが、文化遺産の厚み、あるいは自然と文化が一体となった独特の雰囲気は、とうてい神戸は太刀打ちできないと感じた。それに京都は豊臣秀吉がほぼ現在の姿に変えて以降、大きな地震はないし、第2次大戦での空襲も受けなかった。まれに鴨川が洪水を引き起こすことはあるとはいえ、江戸時代に作られた多くの文化遺産や、それ以前のものも含めて、災害の影響を受けずに残された文化遺産は京都の非常に大きな強みになっている」

 「対して、さまざまな顔を持つのが神戸の特徴だろう。まずは異人館や旧居留地に代表されるような異国情緒。これは神戸が港町として発展してきたことによるものだ。街中でも旧居留地などと異なり、新開地や新長田では独特の下町の魅力を形成している。一方で、神戸に文化遺産が全くないわけではなく、山麓には多様な神社・仏閣がある。郊外・里山地域には、かやぶき民家と神社仏閣で、自然と文化が一体となった独特の景観がある。かやぶき民家が国内で一番多い自治体は神戸市だ。観光地としての六甲山、有馬はいうまでもない」

 「このように神戸にはいろんな顔がある。だから『神戸の観光はこれですよ』と、一言でいうのは難しい。だが、このことは神戸の観光の、非常に大きなポテンシャル(可能性)を示しているともいえる。このポテンシャルを、どう生かしていくのかが非常に大事なテーマではないか」

 ――そのポテンシャルを生かすには、どのような方法があるのか。

 「少し話は変わるが、いろいろな顔のある神戸という街を、神戸市民はずっと昔から楽しんできた。私達はそういう、いろいろな顔を持った神戸の街で暮らしてきて、『神戸らしいライフスタイル』を作り上げてきた。新開地近辺で生きてきた人、それから阪急沿線で生きてきた人、塩屋や須磨でずっと暮らしてきた人、それぞれライフスタイルが違い、多様な暮らし方があるが、それぞれに魅力的な生き方、暮らし方だろう」

 「こうした私たちが楽しみ、親しんでいるライフスタイルは、やはり誇るべきものだと思っている。これを神戸に訪れた人、もちろんインバウンドのみなさんにも自然体で楽しんでいただきたい。よそ行きの顔を無理やり作るのではなくて、私たちが普通に、普段着で楽しんでいること、そういうライフスタイルを自然体で楽しんでいただく観光が、神戸に向いているのではないか」

 「たとえば『神戸登山プロジェクト』も、そういう視点がもとになっている。開港によって定着した外国人が六甲山で本格的な登山を始めた影響を受けて、神戸市民は戦前から、習慣のように登山を楽しんできた。そこに磨きをかけることができれば、私達自身がもっと楽しく、そして神戸を訪れた方にも、もっと楽しんでもらえるはずだ。そういう努力が大事だと考えている」

 ――「神戸登山プロジェクト」は2023年1月に神戸市が打ち出した。

 「神戸登山プロジェクトが非常に大きな可能性を秘めていると思うのは、健康志向、それに伴うアウトドア志向は今後も強まると思われるからだ。同時に子供も大人もネット社会の中にからめ取られているのが、本当にいいのだろうかという意識は、確実に広がっている。人間というのはやっぱり五感を統合して世界を認識し、そして生きていく。自然の中に身を置き、そこで体を動かして、風景やたたずまい、小鳥のさえずり、木々のかぐわしい香りを楽しむという、五感を研ぎ澄ませて楽しむことの大切さは、グローバル社会の中でも間違いなく見直されるだろう」

20230709六甲ケーブル
気軽に山に出かけられる交通機関も(写真は六甲ケーブル=資料)

 「そうしたことを考えたとき、東京23区や大阪市内といった街中には自然がほとんどないことに気づく。もちろん緑の豊かな公園はあるが、『自然』というにはほど遠い。一方で神戸には六甲山があり、また六甲山を越えれば有馬温泉があり、六甲山に連なる多くの山々がある。そこでのびのびと体を動かして、山の魅力を楽しめることに可能性がある。むしろ今後、求められていくのではないか」

 「それに神戸の山は市街地に大変近いのが特徴だ。市街地から直接、登ることができる。新幹線の新神戸駅からすぐに山に入れるし、兵庫県庁舎に接続する地下鉄の県庁前駅からでも、少し歩けばハイキングコースに入っていく。こういう街は世界を探しても、なかなか見当たらないと思うが、どうだろうか」


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