(解説)新観光戦略、兵庫県は名を捨て実を取れ 「すべて兵庫」は逆効果にも

20211218DC設立総会
「兵庫テロワール旅」の提案を受ける斎藤知事(21年12月17日)

【神戸経済ニュース】兵庫県が3月16日に発表した、2023〜27年の観光に関する中期計画「ひょうご新観光戦略」には、うなずける点が多い。観光スポット1つ1つの歴史や成り立ちを「テロワールコンテンツ」「フィールドパビリオン」という形で点検・整理し、提供できる体験の内容とコンセプトを明確化する。縮小する国内よりも、拡大する海外への販売促進を強化する。多言語、キャッシュレス、ユニバーサルツーリズムなど観光客の受け入れ環境を整備するーーいずれも旅行・観光ビジネスとの関係を深めるのに必須だ。魅力向上や競争力強化には欠かせない。地域活性化や経済波及効果も見込め、行政がいくらか税金を投入してでも展開する価値があると考えられる。ただ「HYOGO」を海外に向けて、前面に打ち出すのは逆効果になる可能性を指摘しておきたい。

◾️HYOGOはブランドになるのか
 ひょうご新観光戦略では「HYOGOブランドを核とした兵庫観光の振興」を重点施策の筆頭に掲げている。兵庫県の斎藤元彦知事が出張先のシンガポールで記者会見した際にも、現地に「兵庫」あるいは「HYOGO」を浸透させることの重要性を強調していた。しかし、観光客が旅行先を選ぶときに「兵庫県」という選択肢を提示することが、はたして兵庫県に観光客を呼ぶことにつながるのだろうか。たとえばドイツの森に興味があるという観光客に対して、大学都市フライブルグや黒い森を紹介する前に、バーデン=ビュルテンベルグ州の話をしてもピンと来るのだろうか。

20230507HFP知事説明
「フィールドパビリオン」について説明する斎藤知事(22年7月18日)

 旅行というのは移動を伴うので、結果として体験と地名が結びつく。ハワイといえばビーチリゾートだし、スイスといえばアルプス山脈だ。ただ、ビーチリゾートを体験したい人が行く場所の代表格がハワイだし、万年雪の美しい白い山を味わう体験をしたい人がスイスに行く。アメリカに行きたいからディズニーランドに行く、という人は現代では常識的に考えて少数派だ。本場の「ディズニー」を体験したいから、その場所まで移動するのであって、たまたまそこがロサンゼルスだったり、フロリダだったり、アメリカだったりするだけのことだ。

 つまり観光は常に「体験したい」が先に立つということだ。だからJRグループの大掛かりなキャンペーン「兵庫デスティネーションキャンペーン(DC)」を控えて「テロワールコンテンツ」という形で、2025年に大阪市で開催する国際博覧会(大阪・関西万博)を控えて「ひょうごフィールドパビリオン」という形で、それぞれ提供できる体験のコンセプトを明確化したのではなかったか。テロワールは食を中心に、フィールドパビリオンはSDGs(国連の持続的な開発目標)を中心にと、少し色彩は異なるけれど、どちらも目的は「どのような体験を提供するか」という対外プレゼンテーションと同時に、観光客と受け入れ側(体験を提供する側)の認識の差をなくすことだ。

 こういう体験をしたい人はこの場所にと、体験と地名を1対1で結びつけるのが兵庫県の観光マーケティングとしての第1歩になるだろう。つまり「兵庫県」という地名は、ただ1つだけの体験と結び付けるには広すぎるというわけだ。だから温泉なら有馬、城崎、湯村だし、姫路城は姫路だ。竹田城なら和田山、カニなら香住、新鮮な魚介類なら明石、包丁なら三木、神戸ビーフなら神戸、日本酒なら灘などと打ち出すのが先だ。そのうえで、正確な時間で運転する日本の鉄道を使えば姫路から神戸へは37分で移動できるのだから、さまざまな体験を組み合わせてみませんか、という提案が可能になると考えられる。

◾️「兵庫」は名を捨て、実を取れ
 実際、温泉も姫路城も竹田城もカニも魚介類も包丁も神戸ビーフも「すべて兵庫」というのを理解したところで、残念ながら具体的な旅行の計画は立てられない。すべての観光客をとりあえず県の中心地である神戸に集めることはできるかもしれないが、たとえば神戸と湯村温泉の間では往復にバスで6時間かかる。神戸にも何かよほどの目的がない限りは、むしろ「兵庫って不便」という印象にもつながりかねない。兵庫県は、兵庫県自身がつね日ごろから「五国」と言っている通り、いろんな地域がさまざまな場所に広がっていて、たまたま運命的に兵庫県という単位でくくられているだけのことなのだ。だから兵庫県を訪日客に楽しんでもらうためには、「兵庫県」という名称よりも県内各地に点在する多様な観光スポットの認知度を高めることが先決だ。

20220927中条あやみさん
兵庫DCの全国会議には女優の中条あやみさんが登場(22年9月26日)

 新型コロナウイルスの影響で3年間は産業としての観光がほとんど機能しなくなり、4年ぶりに本格的な観光が再開される。2023年は多くの人が旅行をする1年になるだろう。円安もあって、すでに京都など日本の主要な観光地には、訪日客での混雑も起き始めている。そうしたタイミングで観光戦略をまとめたことは大いに評価できる。一方で「ひょうご新観光戦略」には幸い、どのようにして「HYOGO」を海外に打ち出すかという具体的な施策への言及がない。兵庫という名前を積極的に出さずとも、さまざまな体験のニーズに沿った個別の観光地名を打ち出すように観光戦略を運用することで、巡り巡って兵庫県全体の観光振興につながるだろう。打ち出す必要がある地名は100を超え、何が弾けるかも分からない。それだけに地道に進めることが、花を咲かせる近道だ。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)

▽関連記事
関連記事

広告

コメント

コメントの投稿

非公開コメント

広告

神戸経済ニュース twitter

広告

神戸経済ニュースについて

神戸経済ニュース

Author:神戸経済ニュース
「神戸を知ると世界が分かる」を合い言葉に、神戸の景気・企業・金融・経済政策などにまつわる話題を随時お伝えします。すべての記事がオリジナルです。

詳しくはこちら。

広告