(解説)「絶対もうかる=怪しい」は届いたか 高校で投資教育・開始から1年

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【神戸経済ニュース】2022年度から、投資や資産形成にまで踏み込んだ金融教育が高校の家庭科で必修になり、1年が経過した。「教科書にも投資信託」などと話題になったが、依然として「教え方」「教える内容」ともに模索が続いているようだ。というのも、たとえば教科書に出てくる内容だけでは、「安全、確実、高利回り」「絶対もうかる」という誘い文句には慎重になる必要があると直観的に理解するのも、なかなか難しい。金融教育が何を目標にしているのかを、教える側は改めて意識する必要がありそうだ。

 三井住友信託銀行は、学習指導要領に沿った参考書「いま知りたい!高校生のマネー入門」を作成した。同行の支店担当者らが22年度、講師として44校で出前授業を開催。21年度の2校から大幅に増えた。関係先に同書を配布したことなどもあり、学校からの依頼が増えたためだ。多くの銀行も学校での出前授業を実施したが、とりわけ信託銀行は資産運用の「老舗」に当たる。学校側としても信託銀行に、投資や資産形成の専門家であることを期待して、金融教育の資源を求めた面がある。

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三井住友信託銀による出前授業(神戸市中央区の神戸学院大学附属高校で)

 背景には、やはり資産運用の経験を持つ教員が少ないことがあるようだ。金融情報サービスのQUICK(東京都中央区)が3月に発表した高校教員へのアンケート調査によると、家庭科教員の4割近くが「資産形成・運用」分野に苦手意識があると回答した。好ましいと考える授業の形式も座学でなく、「生徒同士のグループワーク」との回答が最多。生徒に自ら学び取ってほしいというわけだ。教員が経験談として語ることに、難しさを感じている様子が浮かび上がる。しかし経験を語れないのは、地理や化学でも似たようなものではないか。

 東京証券取引所で金融教育を担当する金融リテラシーサポート部の森元憲介課長は「金融リテラシー(理解・活用力)という概念が、とても幅広いということが、教えにくさにつながっている」と指摘する。金融庁が13年に整理した「最低限身に付けるべき金融リテラシーについて」は4分野・15項目にわたるが、このうち高校の教科書に載ったのは、かなり多めに数えるとしても半分だ。金融の役割や仕組みの概略すら把握しないまま、家計管理での資産運用について語るのは、やはり矛盾があるように思える。

 とはいえ金融は、それだけで1つの学問分野になるほど奥が深い。高校ですべてを教えるのは不可能だから「これだけは覚えよう」という観点で、教科書の内容を決めたとみられる。ただ、その内容の選択に誤りはないのか。資産運用を活用する前に、「〇〇商法」といった投資詐欺から身を守るための知識こそ必要ではないのか。幸い「お金の話は学校で一切しない、という状況ではなくなった」(東証の森元氏)。投資について教えることに賛成するにしても、いま一度その意義を確認しながら「何を教えるか」を折々で見直す姿勢は必要だろう。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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