(解説)なぜ神戸は素通りされるのか 景気悪化と大型観光キャンペーン

【神戸経済ニュース】あけましておめでとうございます。2023年が始まりました。今年も神戸経済ニュースを、どうぞよろしくお願いします。今年は4月に統一地方選を控え、すでに選挙の話題が増えつつありますが、気になるのはJR旅客6社が展開する大型観光キャンペーン「兵庫デスティネーションキャンペーン」でしょう。北は北海道・稚内から南は鹿児島・西大山駅まで、JRのすべての駅で兵庫県へ旅行するよう勧誘します。兵庫県が目的地(デスティネーション)になったのは2回目で、09年以来14年ぶりです。ただ、兵庫県内で最大の都市である神戸は、意外にキャンペーンの恩恵を受けられないというリスクシナリオもあり得ます。少し考えてみたいと思います。

■素通りされるリスク
 兵庫県への観光誘致を考えたときに神戸の役割は、兵庫県の玄関口になると考えがちだ。国内13空港との間で空路が開設されており、JR山陽新幹線の新神戸駅にはすべての新幹線が停まる。交通の利便性から、兵庫県を訪れる観光客はまず神戸に入ると思ってしまいそうだが、残念ながら必ずしもその必要はない。神戸から兵庫県内各地に向かう交通機関は、多くは高速バスになる。だが落ち着いた鉄道の旅を求めているなら、たとえば姫路のほうが城崎や香住などの観光地につながる路線がある。

 丹波地域や但馬地域と姫路城を一度に巡るとすれば、実のところ大阪を拠点にするのが便利だ。新大阪・大阪から乗車して、尼崎で福知山線に入り、兵庫県の丹波地域、城崎温泉まで運転する特急「こうのとり」が運転されている。実際、JR西日本は城崎温泉に向かう臨時列車の出発式を、昨年7月1日の「プレキャンペーン」の初日に兵庫県の斎藤元彦知事を招いて大阪駅で開いた(1枚目の写真)。空から兵庫県を訪れるには大阪国際(伊丹)空港に、神戸空港をはるかに上回る国内の路線網がある。

20230101兵庫プレDC出発式

 いずれにしても遠隔地から2泊3日で兵庫県を訪れようとした場合、大阪から「こうのとり」などで豊岡市に入り、城崎温泉などで宿泊した後、播但線で姫路まで南下し、姫路城を見て新幹線に乗って帰宅するというルートがゴールデンコースになる可能性がある。神戸には、わざわざ立ち寄らない限りは素通りされる展開があり得るのだ。素通りされないために、神戸の魅力を改めて訴える必要があるだろう。

■都市の魅力と吸引力について
 とはいえ以前のように異人館と南京町で神戸に人を呼べる時代ではなくなった。輸入食品店は全国展開する店舗もあり、かつて存在した「神戸でないと手に入らないもの」は、ほぼゼロになった。中華料理店も、中国や台湾が出身の店主が調理する店がこの数十年で、特に首都圏で大幅に増えた。西洋文化を取り入れた「神戸のような暮らし」が全国に広がったのが日本の近代化であると考えれば、いまの神戸の中に「非日常」を見出すのは、実は簡単ではない。

 たしかに大都市としての魅力はあるし、神戸は独自の文化を形成しているといえるが、住んでみないと分からない点が多いというのは、観光客に訴えるには弱点だ。簡単にいうと、いろんな人が住んでいて、いろんな店があるのが大都市の魅力だ。たとえば東京に進出した洋菓子店の本店があったり、これから東京に進出する洋菓子のブランドが神戸で先取りできるといった可能性はある。それにしても少し時間をかけて楽しまなくては、他都市と違う良さを感じにくいという面がある。

 こういう話題になると、しばしば「昭和風の商店街」の話を始める人がいる。「B面の神戸」と言ったりするかもしれない。だが残念ながら、これらは「神戸にしかないもの」ではない。隣の大阪にもっと強い類似コンテンツがあるし、日本であれば一定の規模の都市に住む人にとっては珍しくもなんともない光景だ。そういう場所に行きたがる人も少しはいるだろうが、多くの人を誘導するのには無理がある。神戸にしかないものを探すのは、他の都市を知らない人には難しい、というのをもっと自覚するべきだろう。

■港で旅情を感じるには
 昔も今も、神戸の街に大きな特徴をもたらしているのは、港があるということだ。にもかかわらず、港が観光資源になっていないのは、とてももったいない。1月1日ですら神戸港には台湾や香港、上海、タイのバンコク、ベトナムのホーチミンなどから来たコンテナ船(2枚目の写真=資料)が続々と入ってくる。重量ベースでは輸出入の99%が海上貨物なので、本来であれば港は日本が世界第2位の海運大国であり、世界とつながっていることを実感できる場所のはずだ。しかし東京港も横浜港も、あるいは清水港(静岡市清水区)も、世界からコンテナ船が集まる場所を観光地にできた例は見当たらない。

20230101コンテナ船

 大きな駅や空港で、思わぬ地名を見かけて旅情を感じたことはないだろうか。目の前の列車が、あるいは飛行機が、自分が訪れたことのない場所から到着したというのは、面白い現象だ。非日常を感じることができる。最近はLED式に変わり少し風情はなくなったが、以前であればパタパタと変化して次の列車や飛行機の出発・到着を示す案内板に、訪れたことのない地名が現れるだけでも、何とはなしに非日常を感じることができた。だから船のような、大きな鉄のかたまりが何千キロメートルもの航海を終え、神戸に到着したと分かれば驚くだろう。

 港を見渡せる展望台から、どの船がどこから来て、どこへ行くのか分かると、それだけで人を呼ぶことができるのではないか。そうした情報を可視化するためには、たとえばAR(拡張現実)技術を活用して、メガネ型のディスプレーを身につけると、視界に入った船の上に、出発地と次の寄港地が表示される仕掛けなどが考えられる。オープンソース(無償で公開、誰でも修正可能)で運営している「マリントラフィック」の存在などを考えると、それほど手間をかけずに作ることができそうだ。無料の展望台でも、ディスプレーを有料で貸し出すことができれば、新たなビジネスになるかもしれない。

■ □ ■ □ ■

 各国の中央銀行は昨年来、インフレ制圧を目的とした利上げに動いている。特に米連邦準備理事会のパウエル議長(日本の日銀総裁に相当)は昨年の夏場以降、インフレ抑制のために景気後退も容認するといった発言を繰り返している。日本も米国に比べるとインフレ圧力は小さいとはいえ、昨年12月には動かないとみられていた日銀までもが、利上げに向けた動きを見せて金融市場を驚かせた。

 世界の景気が後退局面に入ることも含めて、今年の景気悪化は避けられない様相だ。大型の観光キャンペーンで荒稼ぎをしようとすると、当てが外れることになりかなねない。旅行の日程も短縮されやすいことを考えると、兵庫県の観光キャンペーンでありながら、神戸が素通りされるリスクは常にある。ひなびた温泉地や各地に残る伝統産業の良さなどと、大都市である神戸をどう組み合わせるかは隠れた難題なのだ。しかし、そこで他都市にはない神戸の魅力を改めて確認することができれば、今年の観光キャンペーンのレガシー(遺産)になり、新たな国際都市としての未来も見えてくるだろう。
(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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