(解説)医療ツーリズム、一段と議論の掘り下げを G7保健相会合まで2か月

20161020G7神戸保健相会合

 9月11〜12日に神戸市で開催する主要7カ国(G7)保健相会合まで2か月になった。出席する7カ国の政府関係者だけでなく、報道関係者や非政府組織(NGO)などが世界から神戸を訪れることをきっかけに、「医療ツーリズム」について一段と掘り下げて考える契機にもしたい。G7保健相会合の開催地に選ばれた理由の1つともみられる神戸医療産業都市を単なる研究機関の集積にとどめず、雇用や付加価値を創造する産業として離陸させるのに「医療ツーリズム」は避けて通れない議論だからだ。

名医を訪ねて…
 6月6日、神戸市立医療センター中央市民病院、大阪大学大学院医学系研究科、京都大学iPS細胞研究所、理化学研究所多細胞システム形成研究センターの4機関は、iPS細胞から作った目の細胞を移植して「滲出(しんしゅつ)型加齢黄斑変性」を治療する臨床研究で協定を結んだと発表した。視力が低下し、失明にもつながる目の病気の症状を改善するのが目的だ。阪大と中央市民病院が移植手術や診察を担当するという。順調に進めば中央市民病院で臨床試験(治験)を希望する遠隔地の患者が、多く神戸を訪れることもありそうだ。

 今回は臨床試験の段階だが、患者が自ら受診を希望する「名医」を訪ねて遠くへ行くというケースは少なくないようだ。たとえば神戸や大阪といった近畿からでも、がん治療やセカンドオピニオンなどのため東京・築地の国立がん研究センターで受診を希望するといった例もあるという。専門病院の医師を頼りにするという点では、日本で2番目に設立された小児専門病院である兵庫県立こども病院(神戸市中央区)が広い地域からの患者の子供たちを治療した経験もある。

 iPS細胞を使った目の難病治療に成果が表れてくれば、当面は神戸または阪大でしかできない治療である可能性も高く、人道的な観点や国民福祉の観点からも神戸や大阪以外の患者の受け入れについて検討が必要になるだろう。神戸で高度な医療の開発が順調であればあるほど、こうしたケースが増加する公算だ。そのための宿泊施設の整備や家族の支援施設といった環境整備なども次第に必要になってくるに違いない。

KIFMECの記憶
 だが医療ツーリズムとしての患者の受け入れには慎重な声も多いのが現状だ。神戸市議会が6月10日に久元喜造神戸市長に提出した「観光振興に向けた提言」では、医療ツーリズム振興について両論併記とした。「海外富裕層に対する治療などが、保険適用などの日本の通常医療よりも優先される懸念がある」などと、反対する主張も掲載している。陽電子放射断層撮影(PET)の普及など医療技術の進んだ日本で健康診断を受けるために来日する外国人は増えつつある。一部の地方病院では経営の支えになっている面もあるようだが、現在でも混雑している都市の病院である中央市民病院などに、どう影響するかは説明が必要だろう。

 さらに記憶に新しいのは経営が行き詰まった「神戸国際フロンティアメディカルセンター」(KIFMEC=写真、同病院のパンフレットより)だ。東京商工リサーチのTSR速報(大型倒産情報)によると、3月30日に神戸地裁から破産開始決定を受けた。破産管財人には、あさひ法律事務所(神戸市中央区)の吉村弦弁護士が就いた。負債総額は債権者176名に対して約43億円という。生体肝移植手術を同病院で実施した患者が術後に相次いで死亡したことから外来も入院も患者数が想定を大幅に下回り、経営が維持できなくなった。当初は同病院に建物を貸し出す特定目的会社に出資する形で設立に協力した三井物産も、再建支援を見送ったようだ。

20160710KIFMECパンフレット

 KIFMECが手がけた患者の手術については専門家の間でも見方が分かれているようだが、少なくとも同病院は当初から海外の患者受け入れに積極的だった。そうした経緯の中で医療の安全面について病院の信頼が低下して経営不振を招いたことが、結果的に「はたして日本の医療が世界の健康に貢献できるのか」という点に疑問符を付けることになった可能性もある。さらに同様の病院倒産が相次ぐようでは、地域の医療サービスを低下させることにもなりかねないと、地元住民が警戒するのも当然だ。


 神戸市など行政や商工会議所などで構成するG7神戸保健大臣会合推進協議会は、これまで「200日前フォーラム」「100日前フォーラム」「講演会・トークセッション」など、G7会合の開催を控えて広報活動を展開。24日には50日前として「2016年災害看護フォーラム」を兵庫県立大学地域ケア開発研究所(明石市)で開催する。

 いずれも認知症治療の技術開発や感染症対策、災害対策といったいずれも重要なテーマを取り上げてきたが、近未来志向という点では「医療ツーリズム」について取り上げる機会を会合終了後にでも設けてはどうか。G7会合の成果を受けて、世界と神戸とのつながりという観点から、現在の医療ツーリズム(海外からの患者受け入れ)の利点や問題点を広く市民レベルに伝わるよう整理する必要はあるだろう。これは産業振興の観点でも損にならないはずだ。(神戸経済ニュース)

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