(解説)井戸兵庫知事5期目、多選で膨らむ行政コスト? 初代県庁復元は事業化へ

20170811井戸兵庫知事記者会見

 8月から兵庫県の井戸敏三知事(写真=兵庫県が公開した記者会見の動画より)は5期目に入った。7月2日に投開票した兵庫県知事選のすぐ後である7月10日、井戸氏は兵庫県のホームページに「兵庫県政150周年を迎えるにあたって」と題した文章を公開した。兵庫県の起源は神戸港の開港から6カ月後、「神戸港の後ろ盾として誕生した」(井戸氏の文章)ことにあるという。兵庫県は2018年7月12日に兵庫県の設置から150周年を迎えるとして、記念行事を展開する計画だ。

 すでに県政150年をテーマにした講演会やシンポジウムなど、いくつかの記念行事が始まっているが、目玉になるのは「初代県庁の復元」だ。井戸氏は7月10日の文章で、「伊藤博文も使っていた初代県庁(旧大阪町奉行所の出張所)を当時あった兵庫津に建ててはどうか」と提案する。続けて「兵庫の歴史ロマンを感じることができる施設として、神戸に来られた観光客が年間100万人ぐらい訪ねてくれるような拠点になることを期待しています」と述べている。

 井戸氏が県庁復元の構想を広く公表したのは、1月1日にサンテレビで放送した「新春座談会」ではなかったか。神戸新聞社の高士薫社長も出演し、昨年末に録画したとみられる同座談会の放送3日後、1月4日付の神戸新聞朝刊は「伊藤博文が執務、初代兵庫県庁復元へ」と報じた。報道によると建設候補地は6月にオープンしたイオンモール神戸南(兵庫区)の南側、神戸市卸売市場本場の跡地(地図=Google Mapより)だ。
 
20170811県庁復元候補地

 兵庫県は2017年度予算で新たに「地域創生枠」の予算30億円を計上。ここに「県政150周年記念関連の先行ソフト事業」を織り込んだ。県庁復元に関する予算では「県政資料展示内容調査検討」として、検討委員会の運営などを目的に200万円の枠を取得した。関係者などによると兵庫県は18年度予算での事業化(設計、建設など本格的な事業に向けた着手)を目指しているようだ。

 復元する初代県庁が年間100万人の観光客を呼ぶ可能性は、常識的に考えればほぼゼロだ。神戸市が年1回公表する観光客入込数をみると、神戸市内の観光地では「風見鶏の館」「神戸布引ハーブ園」「六甲山牧場」で年間30万人内外の来客がある。企画展の人気にもよるが「兵庫県立美術館」「神戸市立博物館」で40万〜60万人程度。年100万人を超す観光施設となるとラッコを飼育する「須磨海浜水族園」とコアラやパンダを飼育する「王子動物園」ということになる。はたして「兵庫の歴史ロマン」という展示物がコアラやラッコに肩を並べる人気を持つだろうか。

 しかも、もともとあった場所に復元するわけでもない。初代県庁のあった場所はマンションなどが立つ住宅地になっている。もう少し南に下れば三菱重工業や三菱電機もある工場街だ。この付近に記念館を建てるのを、かねて井戸氏は望んでいたという。神戸市卸売市場本場の移設で偶然にも神戸市から土地の提供を受けられそう、ということで一気に具体化したようだが、周辺環境から見ても「兵庫の歴史ロマン」を感じる場所になるか疑問だ。むしろ現在の県庁付近にあったほうが便利な資料庫などを移すことになり、県政運営のうえで不便になることを想像する必要があるかもしれない。

20170811兵庫県政150周年関連予算

 設計や建設の前に、神戸市から土地を購入するか、借り受ける費用も必要になる。神戸市は相手が兵庫県だからといって、相場よりも安い売却額や賃貸料では納税者に対して説明できない。イオンモールは隣接地3万7384平方メートルを45億円で神戸市から2012年に取得した。土地の価格の変動なども影響するが、購入するなら用地取得費用だけで数十億円が必要になる可能性も残る。さらに公共建築となると、いざという時の避難所になることを考慮するから、建設費は相場よりも高い。歴史的資料を取り扱うとなると、複数年で総じて100億円規模の予算になりかねない。はたして、それは兵庫県の納税者に受け入れられることなのだろうか。

 おそらく向こう4年間、このプロジェクトに対する異論は、兵庫県庁内部や兵庫県議会の多数派にはならないだろう。それがまさに5期目に突入した井戸県政での「多選の弊害」だ。初代県庁復元だけでなく、さまざまなプロジェクトで似たような予算膨張が起きているのではないか——と想像してみると、改めて有権者の5人中3人が投票所に向かわないという兵庫県知事選での投票率の低さが残念だ。(動画は兵庫県が作成した記念映像)



 井戸氏も周辺から「兵庫県政を最もよく知っているのは井戸知事」などとまつり上げられている場合ではない。知事というのは情報が集まるポストなのだから、そもそも最もよく知らないようでは困る。神戸周辺だけ見ても、阪神高速湾岸線を六甲アイランドから西に延伸する計画や、神戸空港に関する規制の問題など課題も多い。そのうえで今後一段と膨らむ社会保障関係費にどう対応するのか。丹波、但馬の過疎化に対して神戸市や阪神地域はどう負担するのかといった長期的な見通しも示す必要がある。7月2日の得票数は井戸氏が当選した過去5回の知事選で最低だったのを、井戸氏は謙虚に受け止めるべきだ。(神戸経済ニュース)

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