(解説)曲がり角の自治体スタートアップ支援 米利上げ局面、調達環境に変化

20211228スタートアップ支援クロノロ

【神戸経済ニュース】自治体のスタートアップ支援が曲がり角を迎えている。神戸市の久元喜造市長が米シリコンバレーに出張し、同市がスタートアップ支援の施策に乗り出した2015年度から6年が経過。神戸市がスタートアップ支援の先進地と注目を浴びた時期もあったが、IPO(新規株式公開)や大型M&A(合併・買収)といった出口案件は見当たらない。中長期的な取引関係が期待できる、大企業によるスタートアップ支援は結局、渋谷区を中心とした東京が日本の主戦場になった。神戸市など、特に地方の自治体は今後も起業家を支え続けることができるのだろうか。

 今年の国内IPO(新規株式公開)は123社だった。年前半は日経平均株価が3万円の大台を回復する場面もあるなど株高を追い風に、IPO社数は06年以来15年ぶりの高水準になった。22年4月に東証の市場区分再編も控えて、いつもより多かったIPO銘柄の本社所在地を見てみると、東京都内が85銘柄と最も多かった。大阪市は9社、愛知県は7社といったところだ。兵庫県の会社は、芦屋市に本社を置くデコルテ・ホールディングス(7372)の1社。神戸市に本社を置く会社のIPOは、18年のワールド(3612)以来、途絶えている。

 スタートアップともいえる、15年以降に設立した社歴の短い会社も20社あった。神戸市は15年に久元喜造市長が米シリコンバレーに出張したのを契機に、16年から「グローバル・スタートアップ・ゲートウェイ神戸」や、米有力アクセラレーター(育成者)の500 Globalと連携した「500 KOBE ACCELERATOR」といったスタートアップの育成プログラムを展開。17年から行政課題の解決にスタートアップと取り組む一種の育成プログラムである「Urban Innovation KOBE(アーバンイノベーション神戸)」を展開してきた。だがIPOを見る限り、他都市に比べて目立った成果を上げたとはいいづらい。

20180831神戸医療産業都市

 足元では、スタートアップを巡る金融情勢も変化しつつある。世界各地で起業が相次ぐきっかけになったAI(人工知能)のブームが一巡し、有望なスタートアップが最初の資金調達を終えた結果、足元で資金調達額が伸び悩んでいるとの説がある。半面、投資家にとってスタートアップへの資金投入は、超低金利のもとで株式や債券より高い利回りを得るための「オルタナティブ(代替)投資」の一環だ。米国が利上げ局面に入り、米国債投資で一定の利回りを得られるようになると、資金を注ぎ込むスタートアップを厳選することになるだろう。スタートアップの資金調達環境は厳しくなる公算だ。

 神戸市の久元喜造市長に話を聞くと、やはりスタートアップ支援について「現在のやり方は変える必要がある」と話していた。投資資金を呼び込むことに主眼を置いた現在の施策は、改めて金融の東京一極集中を目立たせる結果になった。一方で医療機器やバイオ関連のスタートアップは神戸への集積が徐々に進んでいる。国内最大の医療産業の集積地である神戸医療産業都市(写真=資料)の存在感は大きいだろう。もちろん起業家支援は大切だが、神戸に投資を呼び込むには神戸の何が日本や世界に貢献するのか、改めて問い直す局面を迎えたともいえそうだ。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)
▽久元神戸市長へのインタビュー

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