(解説)バームクーヘンが改めて問うAI時代 豊かさの「構想力」ますます重要に

20231016テオ

【神戸経済ニュース】洋菓子の老舗ユーハイム(神戸市中央区)は、人工知能(AI)で名人の焼き方を再現するバームクーヘン用オーブン「THEO(テオ)」を進化させる。これまで1台で完結していたテオをネットに接続することで、さまざまな「名人」の焼き方を再現できるようにする、というのがテオの「バージョン2」の構想だ。これが将来の職人のあり方だけでなく、意外に大きな問いを投げかけているかもしれない。

 テオはオーブン内をカメラで撮影し、AI画像解析の技術で焼き加減を判断。火力を調節したり、バームクーヘンの層を追加したりする。現在はユーハイムのベテラン職人が焼くバームクーヘンを再現。今後、さまざまな名人の「バームクーヘンを焼く技術」をダウンロードして、多様な焼き方を再現できるようにしたい考えだ。たとえば客ごとに、気に入った職人の焼き方でバームクーヘンを提供できるようになる。

 この構想をユーハイムの河本英雄社長は、ソフトウエア世界大手のマイクロソフトがAIの活用を支援する拠点「Microsoft AI Co-Innovation Lab(マイクロソフト・AI・コ・イノベーションラボ)」が11日の開所式に合わせて神戸市で開いた、パネル討論会で発表した。ユーハイムはマイクロソフトの本社がある米ワシントン州レドモンドのAI活用拠点とやりとりして構想を立ち上げたが、今後は神戸の新拠点を中心に進めていく。

 ただ河本社長は「同時に解決しなくてはならない問題がある」とも指摘する。それは「菓子職人が、時間をかけて獲得した自分のレシピや技術(焼き方のコツ)を公開したがらない」ということ。当然と言えば当然だ。人気店の菓子職人が気をつかうことの1つは「いかに真似されないか」だという。自分の技術やレシピがクラウドで誰でも自由に使うことができるようになれば、その瞬間に職人は立場を失うと思うかもしれない。

20231016河本ユーハイム社長

 解決策として考えたのは、職人の技術に対価を払うということだ。焼き方の技術がダウンロードできるようになれば、職人の技術を「誰が、いつ、どこで、何回使ったか、などが分かるようになる」(河本社長)。だから技術の使用料金が徴収できるようになるというわけだ。もちろん技術やレシピの知的財産権を保護することが前提だ。対価が発生することで、より美味しくできる技術やレシピを発表する動機付けにもなる。

 これまで人間にしかできないと思われていたことが、コンピューター、ソフトウエア、ネットワークの高度化によって、どんどん機械化されていく。テオの場合は、微妙な焼き色の変化を読み取って、焼き加減を調節する技術のソフトウエア化だ。これが可能ということは「焼き物」の調理はほとんど機械化が可能だろうし、和紙づくりなど伝統工芸品の製造など、職人の繊細な手仕事でも多くは技術的には機械化が可能ということだろう。

 一方でユーハイムの構想は「おいしいお菓子の普及は社会を豊かにする」という人類の望みも、改めて確認した。技術の進歩で実現することが格段に増えるのであれば、やはり必要なのは「何が社会を豊かにするのか」「自分は何をしたいのか」といった、人はなぜ生きるのか、にも似た根源的な問いを何度も繰り返すことだろう。AIとネットを使って何をするのか。可能性が大きいだけに、実現したいテーマと経路を構想する力はますます重要といえそうだ。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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