(解説)スタートアップ支援に変化の1年 改めて「神戸で起業」の意義を問う

20221230スタートアップ支援クロノロ

【神戸経済ニュース】神戸市の経済政策の特徴は、まず神戸医療産業都市構想、次にスタートアップ支援だった。神戸市は2015年度に日本の自治体としては最も早く「アクセラレーター」と呼ばれる起業家育成プログラムの提供を始めた。16年からは、米ベンチャーキャピタルの500グローバル(旧500スタートアップス)と共同でアクセラレーターを開催。「世界から起業家を呼び込む」と自治体としては画期的なスローガンを掲げたが、22年3月限りで500グローバルとの合意を解消。単独でもアクセラレーターを実施せず、神戸市はアクセラレーターから事実上撤退したのが2022年だった。

 「スタートアップ支援はコモディティ化した--」。ある神戸市の職員がつぶやいていた。2015年の段階で「スタートアップ」の文字列を、まず新聞で目にすることはなかった。しかし、いまでは毎週、日本経済新聞が「スタートアップ面」に紙面をさく。日本のベンチャーキャピタルや、スタートアップとの連携をめざす大企業が積極的に「アクセラレーター」を提供。神戸市の取り組みも参考にしたとみられる施策を、経産省を中心に国も展開し始めたことで、スタートアップ支援では目立てなくなったのが現状だ。

 新型コロナウイルスの影響もあった。「世界から起業家を呼び込む」との目論見は、当初はうまく行くかに見えた。500グローバルのプログラムを受けたい起業家は、国内外から神戸に集まった。米国で起業した英語教育ベンチャーが、日本の進出先に神戸を選んだ例もあった。しかし新型コロナの感染拡大とともに行動が制限されたことで、起業家も投資家も、メンター(講師)らも神戸に集まれなくなったのは誤算だった。医療産業都市には国内スタートアップの進出が細々と続いてはいるが、成果は思ったほど広がりを持たなかった。

 2018年ごろには、スタートアップ支援に熱心な日本の都市といえば仙台、神戸、福岡の3都市の名前が上がった。だが新型コロナで県境を越えた移動を自粛するよう求められた結果、結局はスタートアップも東京に集中した。神戸市がスタートアップ支援を始めて以降では、家賃などを支援したmonoAI technology(5240)が22年12月20日に初めて東証グロース市場にIPO(新規株式公開)まで漕(こ)ぎ着けたから、神戸はまだ目に見える成果が出たほうだ。福岡市は「スタートアップ都市」を宣言して10年が経過したが、市が支援したスタートアップの上場はいまだにゼロだ。

 ところで「スタートアップ」には一種の金融ビジネスという側面がある。「連続起業家」の存在が示すように、低金利で行き場を失った投資家の資金を受け入れ、資金運用の一環として新たなビジネスを立ち上げ、少し事業が回り出したら売却して利ザヤを抜く。スタートアップに急成長が求められるのは、このためだ。2000年以降のIT(情報技術)の急速な進歩で、ITさえ投入すれば急成長した分野もたくさんあった。だが足元では本格的なインフレの到来で、日銀までもが利上げに向けて動き出している。投資家の資金が安全で高利回りの米国債に向かい、いよいよスタートアップやベンチャーキャピタルに回らなくなるという事態も想定される。

 22年は神戸市がスタートアップ支援の形を変える「潮時」であったのは間違いない。ただ、かつて造船や製鉄が市内総生産(GDP)の中心を占めていた重工業の街から、時代に合った産業構造の街に転換するには、どうしても起業が必要だ。金融機関や年金基金などの投資家が投資資金を引き上げるとなると、神戸の起業家を育てるのは神戸で活躍する既存企業ということになる。加えて他の都市にはない神戸の特徴は、港湾都市であるということだ。たとえば海外に比べて大幅に遅れている港湾機能のIT化こそ、国をリードする勢いで進める民間物流会社が現れてもよいのではないか。神戸で起業することの意義は何か、という原点回帰が起業家支援の施策にも必要だろう。
(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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