(解説)兵庫県の22年度予算案、財政健全化の「斎藤路線」見せる 市場は評価か

20210604MKTワッペン

【神戸経済ニュース】兵庫県が発表した2022年度予算案は、一般会計の規模は4年ぶりの減額で2兆3833億円。2021年8月1日に就任して以来、初めて年度の予算を編成した斎藤元彦知事(写真=資料)は兵庫県の財政が「外から見ていた以上に厳しいことが分かった」ことを強調し、東京都や大阪府、神奈川県などが過去最大規模の予算を提示したのとは一線を画した。緊縮路線とはいえないまでも、国、県とも税収が回復して兵庫県債の発行を抑えられる機会をとらえ、将来負担比率が47都道府県で最悪といった状況からの脱却をめざした「斎藤路線」になっている。こうした20年ぶりに交代した新知事の姿勢は、債券市場では一定の評価を得られそうだ。

20220218斎藤知事資料

 総務省が昨年末までに発表した地方財政計画、地方債計画などから、多くの自治体で2022年度は財政が健全化することは想定されていた。そうした中でも斎藤元彦知事は「県政改革方針案」を示して行財政運営方針を見直す方向性を堅持。「スクラップ&ビルド」の「ビルド」に力を入れると強調しながらも、使われた実績がない予算を予算案から削るなど、財政の「見える化」に取り組んだ。制度金融の貸付金を減額した部分を除いても一般会計の規模は1%程度の減額になっており、1995年の阪神淡路大震災以来、「財政の悪さを警戒されてきた兵庫県債の信用力向上に向けて、新知事が意思を見せたようだ」(銀行系証券の地方債担当アナリスト)と受け止められた。

 加えてSDGs(国連の持続的な開発目標)債発行に乗り出すことも、タイミングの良い動きと評価されそう。自治体初のSDGs債は17年に東京都が発行した「グリーンボンド」で、神戸市なども含む他の自治体も多様な形でSDGs債を発行している。SDGs債に希少性が薄れてきたというよりも、逆に投資家の間でSDGs債がかなり浸透し、人気も高まってきたという面が大きい。将来的にはSDGs債の増額を通じて、兵庫県債の安定消化に寄与する芽も出てきたというわけだ。商品性の多様化の観点からも、これまでSDGs債としては発行がなかった20年債に、生保などの需要を指摘する声がある。

 債券相場への影響や、兵庫県債の利回り低下は、ただちに数値に表れるわけではない。地方債利回りは銘柄を問わず、すでに利回りが一段と低下するのが難しい、といった水準まで低下している。特に10年物の国債利回りは1月以降に上昇しているとはいえ低水準であることには変わりなく、日本国債よりも利回りは高いが、信用力も相応に高い銘柄として、地方債全体への人気は続くだろう。臨時財政対策債の発行抑制で、22年度の地方債市場は需給が引き締まりがち。加えて地方財政制度で国が信用補完するため、地方債は銘柄ごとに異なる動きになりにくい。目先は兵庫県債もこうした全体の動きに沿った利回りの推移にならざるを得ない。

20220218予算規模推移

 一方で、SDGs債を発行することで今後、より丁寧なIR(投資家向け広報)が求められるとの見方もある。一般論としてはSDGs債を発行する自治体が増えるほど、投資家には銘柄選別の必要性が出てくる。「各地域が置かれている環境・社会・経済 状況を踏まえて、地域の持続可能性確保の観点から適切な重要課題を抽出した上で、限りある資源・財源を有効活用し、実効性のある取り組みを行っているか、そして取り組みや効果も含めてわかりやすく開示しているかが投資判断の材料の1つになる可能性がある」(野村資本市場研究所の江夏あかね・野村サステナビリティ研究センター長)。斎藤知事の財政への取り組みは、予算案の議会提出がゴールではない。IRも含めて引き続き注目したい。

(神戸経済ニュース編集長 山本学)

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