(解説)神戸市の「都市型産業」振興、現状認識に誤解か 人口流出促す可能性

 神戸市が進めている「都市型創造産業」の振興策は、誤った現状認識に基づいた施策の可能性が高い。神戸市が都市型創造産業と位置付けるデザイン、広告、情報サービス、映像・音声・文字情報制作など8業種は、神戸市の想定よりも、よほど厳しい競争環境にあると認識し直す必要がありそうだ。各業種の実情をそれぞれ実地で調査するべきだろう。そうでなければ同市が進める政策は、むしろ東京への人口、人材流出を促す結果につながりかねない。


20190224都市型創造産業グラフ


 神戸市が都市型創造産業の振興策を進める根拠を説明するときに使うのが上のグラフだ(神戸市のホームページより)。全産業に占める都市型創造産業の比率が高い都市ほど、人口が増えているという。だが、このグラフは都市型創造産業の集積と、人口動向の変化の因果関係を説明していない。したがって、都市型創造産業を振興し、集積させることが人口増につながることの根拠にはならない。常識的には需要のない場所で、需要のない業種で起業しても、事業が続けられなくなるだけだ。

 次に都市型創造産業に集積の余地があるとして、神戸市が示すのは下の図表だ(同じく神戸市のホームページより)。3141億円の需要が神戸市外に流出しているのは、神戸市内でサービスの供給が足りないからだと神戸市は説明している。つまり神戸市で既存の都市型創造産業は、忙しすぎて、神戸市内の需要を消化しきれていないのが現状という。はたして本当だろうか。神戸市内のデザイン事務所が、もうかってもうかって仕方がないという話は聞いていない。

20190224都市型創造産業図表

 実際のところ、神戸市外に需要が流出する背景には、神戸市内の業者が市外の業者に競争で負けている現状が考えられる。どういった競争かというと、主として価格競争だ。たとえば経営体力のある東京や大阪の大きなデザイン事務所が「初回無料」といった価格を提示した場合、比較的小規模な神戸市内のデザイン事務所は太刀打ちできない。業種によってばらつきがあるとはいえ、国内の都市型創造産業は既に過当競争だ。加えて神戸市内の業者でも「優秀なクリエイターは神戸市外からも仕事を獲得している」(神戸市の藤野秀敏・都市型創造産業統括プロデューサー)のだとすれば、やはり神戸の業者が市外の業者との競争に勝つことが重要になるはずだ。

 たとえばクリエイター育成という形で、神戸市は都市型創造産業への新規参入を促している。しかし、初心者でもすぐに職業として自立できるだけの収入を得られる環境ではない。「誰でもクリエイターになれる街」として転職、起業を勧めたところで、厳しい競争にさらされて安い賃金で大量のバナー広告作成などにあたる「ブラック・ワーカー」を生み出す懸念もなしとはしない。あるいは生活の安定のために東京の大企業の傘下に入り、東京の本社で出世コースをめざすといったケースが相次ぐようなら、神戸市の人口増をめざす施策としては逆効果といえる。

 むしろ都市型創造産業の本質的な問題点は、全国的に圧倒的な買い手市場であり、需要不足のため優勝劣敗が進んできたことだ。本当に強化する必要があるならば、1つは東京や大阪からの企業誘致だ。東京や大阪で獲得した仕事を持ったまま神戸に移転してもらう、といったケース。もう1つは神戸の会社の強みを作ることだ。たとえばウェブデザイナー1人では受けられないウェブサイト全体をリニューアルする案件も、ミュージシャン、映像作家、芸能人といった複合的な仕事仲間がいることによって、大企業に競り勝つことができるかもしれない。この両方を進める必要がある。

 おそらく本当に枯渇しているのは、案件を管理したり進行したりする、いわゆるプロデューサーの役割を持った経営者だ。広告宣伝効果をねらった事業を中心とした都市型創造産業は、やはりネット環境の充実で業界全体が変ぼうする過渡期でもある。この時代に、いかに安価、迅速、効果的なサービスを組み立てられるかというのが将来を分けるし、一発逆転の可能性が残っている業界であるともいえる。もしそういうサービスが誕生すれば、神戸経済ニュースの知名度向上のためにもぜひ採用したいが、それを生み出すことが行政に可能なのかどうかは判断が難しい。加えて都市型創造産業を問題にする前に、都市型創造産業が集積するような経済環境とは何かを考える必要があるのではないか、という疑問も残る。
(神戸経済ニュース 山本学)

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