(解説)景気悪化は外からやってくる どう備え、どう乗りきるのか・年頭に

 読者のみなさま、新年あけましておめでとうございます。2019年も神戸経済ニュースをよろしくお願いいたします。今年はラグビー・ワールドカップ(W杯)日本大会が開かれ、いよいよ「ゴールデン・スポーツ・イヤーズ」が始まります。しかし、昨年末にかけて株式相場が急落する事態になりました。景気の先行きがあやしくなってきたからです。年始から先行き明るい話でもなく、概念的な話になりそうで恐縮ですが、今年最大のリスク要因である景気悪化について考えてみたいと思います。

■景気悪化は外からやってくる
 平成の30年間を振り返って確認できるのは、この間に日本経済は間違いなくグローバル化したということだ。日本だけでなく、1989年(平成元年)の「ベルリンの壁」崩壊以降、世界的にみて経済がグローバル化しやすい環境が整った。一部の鎖国状態の国を除けば、ヒト、モノ、カネといった企業活動の3要素は国境を越えるのが以前に比べて格段に簡単になったというわけだ。典型例はユーロ圏の補足だし、新興国で空港や道路の整備が進み、とりわけ「モノ」の移動が活発になった。

 結果として、世界最大の消費地であり、なおかつ金融業が突出している米国の景気変動に、世界景気が連動しやすくなった。米国を中心としたヘッジファンドのマネーが世界中を駆け巡る。さらにマネーの源泉である米連邦準備理事会(FRB、米中央銀行の意思決定機関)の動向は、かつてないほど世界からの注目度が高まっている。近年、消費地としての存在感を高めている中国経済の成長も、米経済の影響は依然として大きい。

20190101日銀短観グラフ

 現時点で米国の経済指標に異変は見て取れないとの指摘は多い。だが、長く続いた景気の拡大の中で、どこかに蓄積された不均衡の表れが株式相場の下落である可能性は残る。特に米国企業の収益が株式市場の期待ほど伸びず、行き場を失ったマネーが米アップル・コンピューターや米グーグルの親会社であるアルファベット、フェースブックなどIT(情報技術)関連株に資金が集中していたのが、ここ数年の米株式市場の実態といえる。この反動が最近の株安に表れ始めたのであれば、2001年のITバブル崩壊に近い状況になりかねない。

■悪化する景気、新たな政策は出にくい
 米国の景気が揺らぐのであれば当然、日本にも影響は出る。消費税率を引き上げるかどうかとは無関係に景気は悪化するだろう。仮に引き上げを延期したとしても景気は悪化することになる。特に日本は2012年以降、国内の金利を抑えて円安に誘導し、輸出産業を強化する流れになっていた。それでも海外で日本製品の価格競争力は回復できたか微妙だ。そうした中で海外の景気が悪化する(海外の需要が減少する)ようなら、自動車を中心とする日本の輸出産業には大きな打撃だろう。

 しかも財政面からも金融面からも、景気悪化に対応した新たな政策を繰り出しにくい情勢だ。財政面では、一般会計で初の100兆円超と、既に過去最高規模の当初予算を2019年に編成することが決まっている。医療や介護などの社会保障費が1兆円超の伸びる中にあって、景気対策の新たな財源をひねり出すのは簡単ではない。金融面では、既にゼロの政策金利を日銀が下げられず、「マイナス金利」「長期金利の誘導」といった効果が測れない試みを、もう何年も続けている。

 いまのところ19〜20年にかけての景気の悪化は、あっても浅くて短いだろうという見方が大勢を占めている。世界経済に後退(マイナス成長)はなく、減速(伸び率の縮小)後に再加速するとの予想もあるようだ。ただ、海外景気の悪化が予想外に深刻だと、手を打てないまま国内景気に深刻な影響が出かねない。しかも19年のラグビーW杯や20年の東京五輪・パラリンピックを控えているだけに、行政が景気悪化に気づきにくいという可能性もある。訪日客数の動向などでは景気が察知できないからだ。

■それでも影響が小さいことへの期待感
 もっとも神戸を含む近畿地方は、全国的にも珍しくインフラ整備が今後進むことへの期待感が強まっている地域だ。18年12月に着工した大阪湾岸道路西伸部は、阪神高速湾岸線を西に向かって伸ばし、神戸港を横断する高規格の道路を建設する計画で、建設費は約5000億円。約10年で完成させるというが、建設を加速するなら地元の建設業者や資材業者などが、2020年以降に見込まれる建設需要の冷え込みを雇用面で多少は吸収する可能性がある。大阪湾岸道路西伸部の完成は先だが、神戸空港の運用制限拡大も含め、交通インフラの整備・活用でヒトやモノの動きが活発になるなら景気悪化の影響を緩和できるかもしれない。

 神戸市の中心市街地である三宮に目を向けると、再開発が進行中だ。主要なプロジェクトでは阪急神戸三宮駅ビルや神戸市役所、中央区雲井通のバスターミナル(図=事業協力者の代表である三菱地所の発表資料より)などの計画が挙げられる。さらに昨年から解体が始まったJR三ノ宮駅の新駅ビル計画が明らかになれば、神戸の玄関口の全体像が想像しやすくなる。これまで東京や大阪から関心が向かいにくかった神戸の都心市街地に、新たな投資を呼び込むきっかけを作るのは、次に景気が回復する際の希望になるのではないか。

20180911バスターミナル1期

 加えて、やはり今年のラグビーW杯や、21年に開かれる「ワールドマスターズゲームズ2021関西」といった、スポーツイベントで訪日客が増えるのは、景気の下支えになるだろう。ただ、こうしたある種の特需的な景気の下支えは、昭和の遺物ともいえる、いわゆるゾンビ企業の延命にもつながる。景気の悪化は構造改革のきっかけになるケースも多い。だが関西では消費が活性化したばかりに構造改革が進まないのだとすれば、既に海外と差が付き始めている日常の技術へのITの浸透などで、関西の遅れが拡大する可能性もある。

 従って国内でビジネスを展開する場合でも、以前に比べると収益が海外景気に左右されやすくなっている。このため情報収集にも、海外に強みを持つメディアを使いたいと考える国内のビジネスマンは増えるだろう。そこで改めて通信社電が関心を集めるのではないか。紙面や放送枠(番組)の制約を考慮せずに、リアルタイムで情報を更新するスタイルは、もともとインターネットの時代に合っている。

■情報の収集・発信に意識変革が必要か
 海外動向をシビアに反映する国内の動きとして、金融市場に関する報道が一段と注目される可能性もある。投資信託や株式を保有する人の数はなかなか増えないが、相場が変動した理由の解説以外では日本語で報道されない海外ニュースが意外に多い。効率的に海外の経済ニュースを補足するうえでは、普段から気にしておいて悪くない。この点でも、紙面や番組の制約が大きいテレビや新聞より、通信社に優位性がありそうだ。

 ビジネス上での情報発信にも、海外への発信への重要度がより高まるだろう。神戸の財界でも、大阪や京都に比べて訪日客を誘致できていないとの主張は多い。海外への働きかけはぜひとも必要だが、テレビや新聞では残念ながら、国境を超えた情報発信が不可能だ。これまでよりも、よりホームページやSNS(交流サイト)を上手く使った情報発信が必要になるだろう。その点でも、SNSに使いやすい形の情報配信に慣れている通信社電は影響力を高めそうだ。

 テレビや新聞といったマスコミに頼らない多元的な情報発信が、新たな人的なネットワーク(人脈)を形成するケースも多い。ツイッターで知り合ったのが縁になり、商品の共同開発などにつながる例は増えている。そうした人脈は、軽々と国境や時差を乗り越える。会社数としては圧倒的に多い中小企業の情報収集・発信への意識の変化はビジネスを変えるし、神戸経済全体への底上げにもつながる可能性を秘めている。
(神戸経済ニュース 山本学)

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