(回顧2018)IPO さらに小粒化進む、再上場組だけ苦戦 宇田川氏に聞く

 神戸市に本社を置く企業では2018年、3月に神戸天然物化学(6568)、9月にワールド(3612)が新規株式公開(IPO)した。16年11月のスタジオアタオ(3550)から1年半近くの間隔があったが今年は2銘柄。兵庫県でみてもイボキン(5699)、極東産機(6233)と、たつの市の2銘柄を合わせて4銘柄と、神戸・兵庫のIPOにとって2018年は比較的「豊作」の1年間だった。

 日本の株式市場全体でみてもIPO銘柄数は高水準で推移した。株式相場の活況などを背景に、IPO銘柄に投資する個人投資家の資金の回転が効いたことがあるようだ。足元の状況からは、当面はこうした状況が続く可能性が高いという。IPOのアナリストでは第一人者として知られる、いちよし証券の宇田川克己・投資情報部銘柄情報課長に話を聞いた。

■ソフトバンク除けば「小粒化」が顕著
 まずIPO銘柄の需給に着目すると「銘柄の『小粒化』が一段と進んだ」と宇田川氏は指摘する。公募・売り出し(公開)の際に市場から吸収する資金(公開価格×公開株数)の金額は18年の平均で344億円。昨年(65億円)の5倍に跳ね上がったように見えるが、今月19日に上場した携帯電話のソフトバンク(SB、9434)を除くと平均53億円だ。100億円を下回り小粒化が進んだと市場で話題になった昨年をさらに下回る。

20181224新規上場2018データ

 小粒化によって需給は引き締まるが、その分を銘柄数で補った。IPO銘柄数は、東証1・2部、ジャスダック、マザーズなど各取引所の新興企業向け市場の合計で90銘柄と、昨年に比べ1社増加した。事業内容では人工知能(AI)関連やIoT(センサーや道具などを常時ネット接続する情報収集や制御)関連、ドローン関連といった、株式市場のテーマになった業種に加え、比較的設立からの時間が長い会社も多く、業種には幅が広がった。

 結果として、投資家が「次々と飽きず資金を回転させることができ、初値も上がる好循環」だったと宇田川氏は分析している。昨年に続いて、公開価格に対する初値の騰落率が100%超(初値は平均して公開価格の2倍を超えた)になった。

■資金の回転継続か、リスクは景気?
 過去最大のIPOであるSBは初値が公開価格を下回った。上場直前の大規模な通信障害に加え、中国の通信機器大手ファーウェイの機材を置き換える費用が懸念されるなど、その後も振るわない展開だ。ただ足元のIPO銘柄との規模が違いすぎることもあり「SB株は別格とみなされて、他のIPO銘柄への影響は小さい」と宇田川氏はみている。実際、20日に上場した2銘柄と、21日に上場した4銘柄のうち2銘柄が、公開価格を上回る初値。2日間で日経平均株価が820円下落する大荒れの中で健闘していた。

 こうした状況が続くとみると、株式相場全体の先行き不透明感が強まっても、IPOだけは堅調に推移する展開がありうる。このため宇田川氏は19年のIPO銘柄数を95銘柄程度、つまり今年よりも増加すると予想する。引き続き小粒の銘柄は多いとみられるが、業種に幅が広がれば個人投資家の資金の回転も効き、それなりに成果が期待できると見込む。ただIPOの活況にも死角がないわけではない。

20181224宇田川克己氏
いちよし証券の宇田川克己氏

 「上場延期がいくらか続くようなら、相場が息切れするシグナルになるのではないか」。特に景気の転換点などでは急速に収益が悪化して、上場審査を受けた時点の収益見通しから大幅な下方修正を迫られるケースがある。そうした場合は主幹事証券会社の判断で上場を延期、事実上の中止にすることも多い。上場延期が相次ぐようだと「IPOは成長企業への投資」という建前が成り立たなくなったり、投資家の資金が回転するリズムが崩れたりする。IPOに資金の矛先が向かいにくくなるというわけだ。レオス・キャピタルワークスが20日に上場を見送ることを決めたのは、念のため留意が必要か。また、上場を延期する銘柄が他にも出てくるか、注目しておく必要がありそうだ。

■ワールドなど再上場組は苦戦、市場と対話が重要
 一方、活況が続く中でも「ただ1つだけ苦戦したグループがある」と宇田川氏は指摘する。いずれも9月に上場したナルミヤ・インターナショナル(9275)とワールド(3612)だ。いずれもアパレルだが、共通点は「再上場」だという。再上場銘柄は収益が2倍、3倍と急速に伸びるイメージが、小粒銘柄に比べてどうしても乏しい。さらに最大の問題点は両銘柄とも「前回の上場廃止の理由が明確でない」という点だ。

 「いつ上場廃止するか分からない銘柄に投資はできない、という連想が投資家に働いてしまう」ためだ。中長期的な保有が見込めない銘柄は機関投資家からも敬遠されやすく、流通市場で需給が緩みがち。したがってIPO銘柄としても人気が出にくい。結果として「会社の実力を下回る株価が付いてしまっている可能性もある」とみている。「ていねいな市場との対話によって、信頼を獲得していくしかないのではないか」と話していた。
(神戸経済ニュース 山本学)

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