(解説)もっと“絵空事”でもよかったのでは? 神戸市「神戸港の将来像」発表

 神戸市が神戸開港150年記念事業の一環として19日に発表した「神戸港の将来像」では、海上コンテナを中心とした物流施設の充実と、港湾の沖合展開によって不要になる旧港湾用地の再開発を掲げた。大阪湾フェニックス計画の一環で埋め立てが始まった人工島の完成を念頭に、神戸港を「積み替え(トランシップ)港」「中継港」として使えるよう最新鋭の物流施設を建設することなどが目玉だ。ただ、現実的で堅実な将来像である半面、市民を巻き込んだ議論をするほどの新味には欠ける内容だったといえそうだ。

20170528現在の神戸港
(現在の神戸港=神戸市「挑戦・進化を続けるみなと神戸」より)

■課題克服に問われる本気度
 施設の整備計画を示すというのは大事なことだ。しかし、長期的な将来像を考えるときに求められるのは通常、向き合わなくてはならない課題をどのような方法で乗り越えるのかを具体的にイメージすることだ。神戸市長の諮問機関である神戸港港湾委員会の答申によると、「トランシップ(積み替え)率の低下」「クルーズターミナルのにぎわい不足」「都心から海(港)を感じられない」など課題をいくつか列挙しているが、これらを克服するための手段として今回の「将来像」が結論づけられた経緯や背景が見えてこないのが残念だ。

 ない知恵をしぼって、少し極端な例をいろいろ想像してみよう。たとえば現在、メーンのクルーズ船ターミナルは新港第4突堤(神戸市中央区)のポートターミナルだが、これを三宮駅周辺に移すことはできないか。ポートライナー沿いに運河を掘り、そごう神戸店の東側あたりにポートターミナルを移すことができれば、きっと「にぎわい不足」はなくなるだろう。JRの三ノ宮駅や新たに建設するバスターミナルと渡り廊下で結ばれ、新快速を降りたら100歩程度でもう上海行きの国際フェリーに乗船できるというわけだ。もちろん都心で港を感じることもできる。標高差や地中埋設物の影響で現実的ではないのは重々承知だが、そうした想像図の1枚でも作れば、議論のきっかけになるであろうことは間違いない。現在のポートターミナル活性化の議論にも一石を投じるはずだ。

20170528ポートターミナル
(ポートターミナルの将来像=同)

 新たに整備するコンテナターミナルにしても、どの程度の貨物量を念頭に置いているのかは示していない。12日付の日本経済新聞(電子版)によると、物流能力を2倍に伸ばし、コンテナ取り扱い数で世界20位程度を目指すという。だが、なぜ2倍なのか、なぜ20位なのかは分からない。たとえば世界一のコンテナ取り扱い数になるには、あとどれだけ神戸にコンテナターミナルが必要なのだろう。また物流施設と食品工場などを一体化するのは現在の流行だが、移り変わりの早い売れ筋の製品を、もっとも港湾施設に近い一等地で製造できるような制度は設計できるのだろうか。あるいは、国境を超えたネット通販(越境EC)の普及によって予想される、小口国際貨物の爆発的増加は考慮されているのか。

■「ボジョレーヌーボー」どう送る?
 毎年秋になると解禁日の11月第3木曜日をめがけ、成田国際空港にフランスからワインの新酒「ボジョレーヌーボー」が到着したと話題になる。高いものだと3000円台でも十分に売れている。一方で、クリスマス近くには市中で販売されるボジョレーヌーボーは味が評判の銘柄でも1000円前後で手に入るケースが出てくる。船便が到着するからだ。生産者や輸入業者にしてみれば、限られた予算の中で、できるだけ多くを高く売れる航空便で送りたいと思うはずだ。

 たとえば神戸空港島にコンテナターミナルを整備し、航空貨物のターミナルと海上コンテナターミナルが隣接または一体化していれば、そうした荷主の需要に応えられるだろう。日本から農産物の輸出が増える可能性を意識すれば、空運と海運の2択を提示できるのは強みになりそうだ。主要港と主要空港は離れているケースが多いため、そんな港は世界中にも珍しいだろうが、関西国際空港も近く、神戸空港もある神戸なら将来は可能になりそうだ。輸出貨物を「とりあえず神戸に送れば、あとは何とかなる」——そうした流れを作れるかもしれない。

 確かに神戸空港や道路網の将来には不確定要素も多い。しかし「陸海空の連携」は、かねて課題としながらも、今回の「将来像」はそれに応える提案も見当たらなかった。陸海空の連携はサービスの多様化や荷役コストの低下につながる可能性が高く、国債や地方債という将来からの借金を使って整備する施設の有効活用をうながすうえでも、もっと真剣に向き合うべき課題ではなかったか。

20170528六甲アイランド沖新人工島
(六甲アイランド沖に新たな人工島=同)

■大人が描く本気の夢どこに
 神戸開港120年記念事業としてメリケンパーク付近で深さ7メートルの海底に沈められたタイムカプセルが、今月3日に引き上げられた。1987年の小学生たちは、思い思いに神戸港の未来予想図を絵画に描いて、夢を詰め込んだ。30年が経過した現在、ちょうど30年前の小学生たちが「神戸港の将来像」を作成するのに、中心的な役割をはたしたことだろう。長期的なビジョンの作成は、大人になった彼ら世代が改めて神戸港の夢とは何かを語る機会だったはずだ。

 空を見上げればハブ(拠点)空港間を大型機が結ぶ時代が終わりつつあるように見える。となると現在の神戸港が掲げる「トランシップ」がいつまで有効な目標であるのか、それすら実は未知数なのだ。あるいはAI(人工知能)やIoT(道具やセンサーなどあらゆるモノをネットにつないで情報収集すること)の活用が先に立つのではなく、そうしたものが必要になってしまう新たな港とは何なのか。

 行政の長期構想として機関決定するための書類だとすれば、どうしても無難な内容に収めざるを得ない。新人工島の用途を(たとえばレジャー施設の誘致などには使わず)港湾施設にすると宣言することは神戸市にとって必要なことだ。だから今回の「将来像」がムダであったということは決してない。ただ、こうした構想に落ち着くまでの議論の薄さは残念だ。たとえ絵空事に見える計画でも、作成者の主張がある「将来像」が提案されてもよかったのではないか。

 そういうプランはいくつあっても、機関決定しなくても、神戸開港150年記念事業であれば誰も税金のムダ使いとは言わないだろう。知恵や知見を身につけて港の専門家になった大人たちが、本気になって神戸港の夢を語るときに、どんな将来像を描くのか。描き手のバックグラウンドによって、個性的だが議論の対象になりうる提案がいくつも現れたことだろう。そして議論が収束した後は、またタイムカプセルに入れて、30年後に開封してみるのも良かったのではないか。(神戸経済ニュース)

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