(回顧2017)神戸製鋼所 株主重視が変える「嘘」の代償

 神戸製鋼所は10月8日に稼ぎ頭のアルミ・銅部門などで長年に渡って、検査データを改ざんしていたことを発表した。その後、日本工業規格(JIS)に違反していた事例なども見つかり、同社の品質管理体制だけでなく経営体制や企業統治の姿勢にまで大きな疑問が投げかけられた。一方で神戸製鋼は現在までに、データ不正のあった製品の出荷先525社のうち既に500社超の出荷先で、安全性の確認を終えたとしている。

 もしかしたら神戸製鋼の不正は細かいことだったのかもしれない。神戸製鋼から素材を仕入れている、ある製造業の幹部は「たとえば寸法違いのようなデータ不正の場合、ユーザー側で神戸製鋼の製品を使ってしまえば関係がなくなるケースもある」と話す。そうした製品の使われ方を見越して、規格外の製品でも「トクサイ(特別採用)」と称して出荷した経緯もありそうだ。

 だが、誰が見ても契約を厳格に守って製品を出荷したかが問われるのは、企業統治をめぐる環境が以前と変わったからだ。政府は企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード)や、機関投資家に企業の監視を促す「スチュワードシップ・コード」を相次いで導入した。このことで企業の不正が発覚した場合に株価が急落し、それが信用不安につながりかねないという事態が起きうる。あらゆる事業の継続には、事業の中身を当事者間のナアナアで済ませるわけに行かなくなった、というわけだ。(写真はサービス指定工場越しに見える神戸製鋼本社=神戸市灘区)

20171224指定工場越しの神戸製鋼本社

 もともと神戸製鋼は情報開示に前向きな姿勢を持っていた。「開示上手」とでも言うべきか。皮肉なことにデータ不正の発覚前、神戸製鋼は環境や社会的責任、企業統治を重視する「ESG投資」の分野で、高く評価されていた。年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)がESG投資の指標として採用している「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」では、不正の発覚前に「AA」と7段階で上から2番目の評価を得ていた。

 環境や社会的責任、企業統治を無視する企業は持続的でない、という考え方がESG投資の根本にはある。逆から見ると、神戸製鋼がESG投資で優れた投資対象とされていたにも関わらず、2017年3月期まで2年連続で最終赤字を計上するなど業績が低迷していた背景には、こうした「嘘」が潜んでいたからという見方もできそうだ。実は密かに社会を裏切っていたのが、業績に表れていたのかもしれない。だとすれば、今回の不正をきっかけとして神戸製鋼が不正の「伝統」を断ち切ることは、同社の収益改善を連想させる。

 一方で以前に比べると、こうした不正が発覚しやすい環境になったことは事実だろう。東レの日覚昭広社長は同社の子会社でデータ改ざんがあったことについて、11月28日の記者会見で「ネットの掲示板で書き込みがあり、それに関して何件か問い合わせがあった」「噂として流れるよりも内容を公表すべきだと考えた」と話したという。不正があっても会社が隠し切れない時代になったというのは、企業の情報開示の信頼度を考えるうえでは安心材料だ。だがそんな中で発する嘘の代償の大きさが、今後どう変化するのかという点も、気に留めておいて悪くないだろう。(神戸経済ニュース)
=おわり

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(解説)神戸製鋼の品質データ改ざん、企業統治や開示姿勢に大きな失望感 (2017/10/10)
神戸製鋼、アルミ・銅製品で品質データを改ざん 調査委を設置 (2017/10/08)

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